Research Abstract |
今年度は,昨年度開発した歯の移動に伴い歯根吸収を引き起こす実験系と対照となる実験系を用いて,細胞内シグナル伝達機構に関連するサイトカイン遺伝子の発現ならびに局在について検討を加えた。SD系雄性ラットの上顎第一臼歯(M1)を初期荷重1.2, 3.6, 6.5, 10gfのTi-Ni合金ワイヤーで近心移動した。対照群では対合歯を抜歯し,実験群ではM1咬合面に付けたレジンにより早期接触を与えた。また,荷重2, 10, 35gfのTi-Ni合金コイルスプリングとチタンスクリューインプラントにより上顎M1の近心移動および,10gfの荷重による矯正力の1日あたりの作用時間を変えて検討した。さらに10, 50gfのTi-Ni合金コイルスプリングにより下顎M1の近心移動を行い,咬合機能低下した歯根膜と正常な歯根膜での歯根吸収の相違を比較した。TRAP陽性で多核の破歯細胞が存在する吸収窩を,新たに形成された歯根吸収窩と判定した。さらに酵素抗体法による免疫組織化学的手法およびRT-PCR法による分子生物学的手法により検討を行った。 初期荷重1.2, 3.6, 6.5, 10gfの対照群では,荷重の増加に伴い移動速度が増加したが,歯の移動に伴う歯根吸収は認められなかった。しかし,早期接触を伴った状態で歯の移動を行うと移動速度は減少し,10gf群では根尖部に歯根吸収が認められた。また,コイルスプリングを用いた場合は,荷重の増加に伴い移動速度が増加したが,10, 35gfの持続的矯正力では歯根吸収が認められた。間歇的移動様式のうち休息時間を1日4時間程度与えると,10gfの持続的移動で認められた歯根吸収は消失した。50gfでの下顎M1の移動でも歯根吸収が認められ,さらに咬合機能低下させると歯根吸収窩の断面積が有意に増加した。この実験系から採取した歯根膜組織より,RT-PCR法を用いてIL-1のmRNAが同定された。さらに,酵素抗体法による免疫組織化学的手法により歯根吸収窩近傍の歯根膜細胞および破歯細胞に,IL-1α, IL-1β, PGE_2といった炎症性サイトカインの局在が認められた。以上の結果から,歯の移動に伴う歯根吸収にIL-1レセプターやPGE_2産生を介する細胞内シグナル伝達機構の関与が示唆された。
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