2001 Fiscal Year Annual Research Report
老年期痴呆にみられる「人形現象」の特性と人形を用いた生活改善療法の研究
Project/Area Number |
12771525
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
小野坂 仁美 愛媛大学, 医学部, 助手 (70284403)
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Keywords | 老年期痴呆 / 認知 / 人形現象 |
Research Abstract |
本研究では、痴呆性高齢者が人形やぬいぐるみなどの非生物や偶像等を「生きている人、あるいは動物」として認知し、それら対象に対してなんらかの関わりを持とうとする現象を「人形現象」と操作的に定義している。そこで、本研究の目的は、この「人形現象」について、痴呆の病態と認知との関連の有無、痴呆性高齢者のなかでこの現象がみられる割合や傾向、生活歴や病態との関連などを系統的に調査し、当該現象を明らかにすることである。そして、当該現象について明らかになったことをふまえて、人形を痴呆性高齢者のケア及びレクリエーションとして活用できる方策を検討することが次の目的である。 当該現象を明らかにするために、脳血管性痴呆の高齢者165名とアルツハイマー型痴呆42名、Pick病7名、ビンスワンガー症候群2名を対象に、形態の異なる3種類の人形を示した上で参加観察法を用いて人形に対する反応の傾向についての調査を行った。結果は、形態の異なる人形の中で最も反応したのは、どの痴呆においても乳児に似せて作った人形であった。人形を見て人形と認知しない割合は脳血管性痴呆とアルツハイマー型痴呆はほぼ同じであったことが判明した。人形として認知しないのは重度の痴呆者が最も多かった。人形に対する関心の高さと継続度は重度の痴呆者が一過性であるのに対し、中等度の痴呆者は継続して人形に対する関心と関わりを維持した。性差でみると、人形に対する関心の高さと関わりについては圧倒的に女性が優位であり、直接自分の乳房に人形の口を当てて哺乳した行為さえ見られた。また、中等度の者は、人形と認知できた上で過去の生活史の回想につながるものが多かったいう結果が得られた。回想については、脳血管痴呆者は人形を「わが子」として認知し世話をするのに対し、アルツハイマー型痴呆者の場合は、人形を見て自分自身が子供に退行し自分の親あるいは子供時代を回想する者が多かった。他者との関係から見ると、人形を介してケア提供者との関わりが容易になり増える反面、人形を人形と認知する他の痴呆者から嫌がらせや叱責を受けたりなどの迫害的行為が見られた。 以上のことから、人形を痴呆性高齢者のケア及びレクリエーションとして活用するのは、「子役割」として人形を用いる場合は、脳血管性で中等度痴呆の女性が最も適切であることがわかった。アルツハイマー性痴呆者に用いる場合は、退行が進む可能性に注意する必要がある。また、他の痴呆者やケア提供者との関係性などの環境を整備した上で行うことが重要であることが示唆された。
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