2000 Fiscal Year Annual Research Report
出土鉄製遺物の保存のための腐食状況の把握と腐食進行メカニズムの解明
Project/Area Number |
12780108
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Research Institution | Tohoku University of Art and Design |
Principal Investigator |
松井 敏也 東北芸術工科大学, 芸術学部, 助手 (60306074)
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Keywords | 鉄製文化財 / 埋蔵環境 / 腐食状態 / 陰イオン / 土質 |
Research Abstract |
本研究は出土金属製遺物の保存のために,その腐食に影響を及ぼす埋蔵環境因子の解明を材料科学および土質工学の立場からアプローチすることを試みた.これまで金属製遺物の腐食状態の解明手段として,腐食生成物の分析があったが,埋蔵環境因子が与える影響については深く議論されてはこなかった.本年度は宮城県多賀城市市川橋遺跡出土した腐食状態の異なる鉄製遺物について,埋蔵環境との関係を探る調査を行なった. 最初に出土した鉄製遺物の実体顕微鏡観察をおこない,腐食状態による遺物の分類を試みた.そして遺物が出土した周辺土壌や地下水,遺物表面の腐食生成物などに含まれる可溶性陰イオンの分析を行なった.その結果をもとに,顕微鏡観察によりグルーピングした遺物の腐食状態との関連を調査した.遺跡の土壌に対してはその物理性の調査も行なった.また,遺構の性質を精査するために遺構の土層断面の転写作業を行なった.これらの研究の結果,鉄製遺物の腐食状態に硫酸イオンの影響が大きいことが示唆できた.そして,遺構土壌の物理性(孔隙率や水分含水比)では有意な差が見られなかった.同じ遺構の中でもpHや溶存酸素量が層により異なり,ほとんど腐食していない鉄製遺物が出土した地下水路に当たる層は,ほとんど溶存酸素がなく,pHも中性に近いことが判明した. 次年度は短期間(発掘作業期間など)に生成される腐食生成物の状態を調査するために,発掘現場において鉄製遺物が出土した層にSS400(軟鉄)などの鉄板を埋設し,発掘期間が終了するまでの腐食状況の調査を行なう予定である.その結果によっては,鉄製遺物の表面に析出した腐食生成物のさびごとの析出時期が推定でき,遺物に劣化・損傷を引き起こす原因となるさびを突き止め,そのさびがどの時期に生成するのかを判断することが期待できる.
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