Research Abstract |
ヒトは,紙などの対象を指で挟むことにより,その厚さを容易に知ることが出来る。対象が厚い場合は,指関節の開き角度情報を用いて厚さ判断を行なっていると考えられるが,対象が薄い場合(例えば100μm以下)については,どのような感覚情報処理メカニズムによりこの判断が可能になるのか不明であった。そこで,本研究では,厚さ50μm以下の金属箔を刺激として用い,触覚系の厚さ弁別閾を測定し,その感覚情報処理メカニズムを明らかにすることを研究目的とした。 実験1では,厚さ8〜50μmのステンレス箔を刺激とし,それを利き手の示指と母指で挟んで,厚さ弁別を行なった。その結果,いずれの厚さの刺激も弁別が可能であることがわかった。ただし,刺激の厚さを弁別するためには指を動かして判断する必要があった。実験2では,実験1と同一の刺激を両手の示指で挟み,厚さ弁別を行なった。その結果,実験1で測定された弁別閾と実験2で測定されたWeber比は一致した。これらの結果から,金属箔の厚さ弁別には指関節の開き角度情報が用いられていないことが明らかとなった。 次に,触覚系がどのような情報を用いて金属箔の厚さ弁別を行なっているかを調べるために,実験3を計画した。実験3では,厚さ10〜50μmのステンレス箔と銅箔を刺激として用いた。これらのステンレス箔と銅箔について,厚さ比較判断実験を行なった。その結果,ステンレス箔と銅箔の厚さが同じなら,ステンレス箔より銅箔の方が薄く感じられることがわかった。実験3のデータに基づき,ヒトが金属箔のバネ定数(たわみにくさ)に基づいて厚さ判断を行なっているとする数学モデルを作成した。その結果は,実験3の結果をうまく説明できるものとなった。最後に,金属箔または金属板の厚さ弁別を行なう際に,刺激のたわみ情報に基づく厚さ判断と,指関節の開き角度情報による判断がどの厚さで切り替わるのかを調べるために,実験4を実施した。実験4では,厚さ10〜1000μmのステンレス箔(ステンレス板)を刺激として用い,厚さ弁別実験を行なった。その結果,刺激の厚さが10〜70μmの場合と刺激の厚さが350〜1000μmの場合は,刺激の厚さを相互に弁別することが出来たが,刺激の厚さが70〜350μmの範囲では弁別は不可能であった。実験4の結果は,10〜70μmでは,たわみ情報により厚さ弁別が行なわれ,350〜1000μmでは指関節角度情報により厚さ弁別が行なわれていることを示しているものと推定された。
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