2001 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12871046
|
Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
河内 信幸 中部大学, 国際関係学部, 教授 (40161278)
|
Keywords | ニューディール / 1929年恐慌 / 公共芸術事業計画 / 連邦芸術計画 / ベン・シャーン |
Research Abstract |
研究を進めてみると、ニューディールの美術プロジェクトを代表する、公共芸術事業計画(PWAP)や連邦芸術計画(FAP)には、次のような問題点があったことが分かった。 第一は、美術家たちがいかに生活に困窮しているのかを、短期間で判定することが難しかったことである。PWAPやFAPの美術プログラムに採用されるためには、救済申請を申し出て、救済リストに正式に登録されなければならなかったが、美術家のなかには、救済を受ける基準が暖昧であるとして、申請手続きをとらなかった人々も多くいたのである。 第二は、政府のやり方があまりにも官僚的・形式的であるという不満が、美術家たちの間に次第に出てきたことである。美術家たちは、仕事場を指定され、朝9時から夕方5時までそこで制作しなければならなかったし、時間がくれば制作の進み具合にかかわらずうち切らなければならなかった。また、アトリエで制作する場合でも、作品1点を約2ヵ月位で完成させなければならないという条件があり、制作期限などで窮屈さを感じた美術家たちも多くいた。 第三は、美術行政のプログラムに採用されるのが市民権をもっている芸術家だけに限定されていたため、アメリカで創作活動を続けていた、帰化していない多くの美術家たちは、その恩恵を受けられなかったことである。PWAPなどのプロジェクトでアメリカ的な表現様式が大切にされたと言っても、アメリカ美術が外国から多くの影響を受けていることは否定できないのであり、市民権所有者だけを対象とした政府の姿勢には、現在でも多くの疑問が投げかけられているのである。 第四は、行政と文化活動の関わりを歴史的に回顧する場合、ニューディール美術行政に対する最大の批判点としてしばしば指摘されることであるが、作品の配置・整理・保存といった運営面に、非常に多くの問題が見られたことである。たとえば、アトリエで制作された作品は、病院、学校、郵便局などの公共施設に送られたが、制作者には自分の作品がどこに引き取られたのかよく知らされないままというケースが多かった。 そして、美術プロジェクトに参加したベン・シャーンの軌跡については、以下の美術館やアーカイヴスに所蔵されているものを検討した。Archives of American Art (Smithsonian Institution, Washington, D. C. ), Ben Shahn Papers ; Federal Bureau of Investigation (Washington, D. C. ), Ben Shahn File ; National Archives (Washington, D. C. ), Farm Security Administration Administrator Correspondence, 1935-1938, Record Group 96, AD 86-987, 994 ; National Archives (Washington, D. C. ), Public Buildings Service, Record Group 121. しかし、これらの資料の詳細な分析と総括は、今後の課題である。
|
Research Products
(1 results)