2000 Fiscal Year Annual Research Report
「衛生」思想からみた西洋近代都市・建築の再評価に関する研究
Project/Area Number |
12875112
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
片木 篤 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (70204419)
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Keywords | 衛生 / 健康 / リゾートタウン |
Research Abstract |
平成12年度は、イギリスの海浜リゾートタウンの代表的な3事例、イギリス海峡を臨むブライトン、北海に面するスカーバラ、アイリッシュ海に面するブラックプールを取り上げて踏査・文献調査を行い、その都市構造と形成過程について分析した。 1753年、医師リチャード・ラッセルは、海水浴が健康の増進に役立つとの医説を発表、翌年、イギリス海峡を臨む小漁村ブライトヘルムストンに開業した。1783年には摂政(後のジョージIV世)の行幸を迎えた後、ブライトンと改名した当地が上流階級のリゾートタウンとして発展、バースに代表される従来の温泉リゾートタウンに取って代わった。現況では、鉄道駅から浜辺に向かって走る大通りと浜辺に沿ったプロムナード(遊歩道)とが交わる近傍に、グランドホテルが建てられ、またプロムナードから海に向かって各種遊興施設を備えたピア(桟橋)が突き出されている。海水浴は勿論のこと、塩分と湿気を含んだ空気を吸い、太陽の光を浴びることが健康に良いと喧伝された結果、プロムナードやピアといったそぞろ歩きのための施設が創り出されたが、それらはまた、パノラマ的眺望を享受するための施設でもあった。 スカーバラ、ブラックプールは、イングランド北部工業地帯の中流・労働者階級の海浜リゾートタウンとして発展したが、ブライトンとほぼ同様の都市構造を有している。前者は入り江となっているためピアはないが、このことから逆に、ピアが茫漠たる眺望を枠付ける額縁の役割を果たしていたことが伺える.また後者ではタワーが建てられたが、これもピアを垂直方向に展開した施設と見做されよう。これら3事例における都市構造の類似性から、リゾートタウンが「健康」と「眺望」を楽しむ遊興施設を核に形成されたことが明らかとなった。
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