Research Abstract |
本研究は将棋種の進化論的変遷を探求すべく,様々な将棋種のコンピュータシミュレーション実験を行い,各将棋種特有のデータを収集し解析する.従来の文献調査に基づく遊戯史的見解では,将棋種の起源はインドにあり,チャトランガと呼ばれる四人制のダイスを用いた将棋である.そして,最初の進化の結果,二人制のダイスを用いないチャツランガにルールが変遷したとされる.このようにして,チャトランガはやがて日本に伝播して原日本将棋(平安将棋)となり,その後,江戸時代に入る前には,現在のような持ち駒を再使用するという特異な将棋種へと進化したと考えられてきた. 四人制の,しかも,ダイスを用いる将棋種(チャトランガ)とダイスを用いない二人制の将棋種(チャツランガ)の間には,ゲーム戦術上,どのような相違があるだろうか.また,チャツランガと平安将棋との間の類似度はどの程度であるか.【Takeshita,et al.,2000】はこれらの疑問への中間答申とも言うべき研究成果である.戦略上の複雑さ(decision complexity)の指標を定義し,先に著者が考案した値を求めるべく,チャトランガ,チャツランガ,平安将棋,数種の平安将棋,現代将棋,チェス,中国象棋のそれぞれのプログラムを作成し,セミランダムプレイという,コンピュータ同士による自動対戦実験を行い,種々のデータを取得した.これらのデータを統計分析し,戦略上の複雑さの視点から進化論的解釈を試みた.そして得られた重要な知見は次の2つに集約される.(1)四人制将棋種より先に二人制将棋種が存在した.(2)原日本将棋とされる平安将棋はインドの二人制将棋種(チャツランガ)とほど同じ程度の戦略的複雑さを持つゲームである.【佐々木ほか,2000】の研究成果は後者を裏付ける. さらに,日本将棋の様々な特徴を抽出すべく,終盤に焦点を当ててプログラムを作成した.高性能な終盤プログラムのための技術的進歩については【Hashimoto et al.,2000】に詳述した.AND/OR木探索の高速なアルゴリズムの実現に成功した.この他,多人数ゲーム,相手プレイヤのモデリング,不完全情報ゲームを題材にプログラムを作成し,将棋種のほかの特徴抽出を試みた【Gao et al.,2001】【Sakuta et al.,2000】【Morooka,2000】.これらの総括を次年度に行い,ゲームの進化論を確立するのが今後の課題となる.
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