2000 Fiscal Year Annual Research Report
元素科学:元素の特性を活かした有機・無機構造体の構築
Project/Area Number |
12CE2005
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Research Category |
Grant-in-Aid for COE Research
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
玉尾 皓平 京都大学, 化学研究所, 教授 (60026218)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 直樹 京都大学, 化学研究所, 教授 (10170771)
斉藤 軍治 京都大学, 理学研究所, 教授 (40132724)
小松 紘一 京都大学, 化学研究所, 教授 (70026243)
時任 宣博 京都大学, 化学研究所, 教授 (90197864)
高野 幹夫 京都大学, 化学研究所, 教授 (70068138)
杉浦 幸雄 京都大学, 化学研究所, 教授 (40025698)
新庄 輝也 京都大学, 化学研究所, 教授 (70027043)
横尾 俊信 京都大学, 化学研究所, 教授 (90158353)
檜山 為次郎 京都大学, 化学研究所, 教授 (90026295)
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Keywords | 元素科学 / σ-π共役 / 有機超伝導体 / 分子集合体 / 金属ナノワイヤー / 亜鉛フィンガー / 高原子価鉄酸化物 / 交差カップリング反応 / 高周期典型元素化合物 / 光触媒反応 |
Research Abstract |
1.典型元素の特性を活かしたσおよびπ共役電子系の機能修飾 具体的には次の3件の研究を行った。 (1)ケイ素-ケイ素結合間の軌道間相互作用。ポリシラン主鎖に沿ったσ軌道間相互作用すなわちσ共役のコンフォメーション依存性を、ビシクロ環にケイ素-ケイ素結合を組み込んでコンフォメーションを制御するという新概念に基づいて、テトラシランおよびヘキサシランについてUV吸収スペクトルのコンフォメーション依存性を実証した。 (2)典型金属を含む環状パイ共役系の構築と電界発光素子への応用。ホウ素やケイ素を含む環状共役ジエン化合物では、それぞれ空のp軌道およびσ^*-π^*共役軌道の存在により、高い電子受容性が期待できる。これらを構成要素とする共役電子系の構築と電界発光素子の電子輸送剤としての性能を評価した。 (3)典型元素を含むパイ共役電子系の光物性と中心元素の配位数との相関。13族から15族の特に高周期元素では3配位から6配位までの種々の配位状態をとり得る。トリアントリルケイ素化合物がフッ化物イオンセンサーとなることがわかった。(玉尾) 2.σ-π共役および三次元π共役系新規化合物の合成 剛直なビシクロ炭素骨格の縮環した一連の芳香族炭化水素、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニレン、およびアントラセンを合成し、これらの安定なラジカルカチオン塩を単離しX線結晶構造解析することに初めて成功)した。結合長から、安定化に対するσ-π相互作用の寄与が明らかとなった。同様にビシクロ骨格を用いる構造修飾により、ケイ素を含んだ初めての環状π共役系カチオン、シラトロピリウムイオンを発生させNMR観測することに成功した。ケイ素を含む7員環は顕著な芳香族性を示すことが明らかとなった。さらに、より歪みの大きいビシクロ骨格の縮環することによって、完全に平面化したシクロオクタテトラエンを初めて合成した。この8π電子系は大きな結合交替によって反芳香族性は低下することが明らかとなった。一方、高速振動粉砕法を用いるフラーレンC_<60>の固体反応により、フラーレン3量体C_<180>の合成に成功した。また、同様の手法によりC_<60>とC_<70>のクロス2量体C_<130>の合成・単離に成功した。(小松) 3.ヘテロ元素π共役系を用いたエキゾチックな有機導電体・超伝導体の開発 以下の課題を中心に、物質開拓主体の研究を行う。a)ET系有
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機超伝導体のTc制御;κ∋-(ET)_2Cu_2(CN)_3について、結晶毎に超伝導臨界温度(Tc=0-12.8K)と実際の組成[(ET)_2CU^+_<(2-x-y)>CU^<2+>_x(CN)_<(3-2y)>[N(CN)_2]_y]の相関を検討した。y=0.3付近の結晶が得られやすいこと、同じyでもTcの異なる結晶が存在することが解った。b)BOおよび類縁体の錯体開拓;BO誘導体の錯体を検討し、(EDO)_2PF_6塩の示す金属-絶縁体転移の機構が、通常の理論では解釈が出来ない、新機構によることを見いだした。c)水素結合能を持つ成分分子を用いた導電性錯体開拓;強力な電子供与体、TDAPについて多数の錯体を作成した。また、本化合物の示す一段階二電子酸化の機構を、分子変形の観点から解釈した。d)C_<60>系超伝導体の開拓;遷移金属とのC_<60>錯体を開拓し、磁性的に興味ある物質群を得つつある。e)Fermi面を持たない金属的錯体の開拓;テルルを含むドナー分子とTCNQの錯体の導電性と他の物性の比較を行った。(斉藤) 4.金属含有有機分子の分子内電子構造の特性把握・解明と集合化挙動 元素科学の立場から分子集合体の構造・機能相関を調べるための研究に関し、とくに分子間・分子内の電子的相互作用の特徴を電子構造の観点から捉えること目指す研究については、価電子状態と空状態が同一試料状態に対して観測できる光電子分光法と逆光電子分光法を組合せた複合的測定系の構築が進んでいる。一方、それらの個別の測定系を用いて、12年度にはとくに分子内の異種元素間の相互作用に注目し、金属フタロシアニンの中でもとくに3d遷移金属を中心金属にもつフタロシアニンを系統的に調べ、空状態では価電子状態と異なり、金属d電子軌道がフタロシアニン配位子のπ電子軌道と強く相互作用していることを初めて明らかにした。また、金属内包フラーレンの還元に対する金属の価数の不変性や、気相堆積過程で金属錯体の中心金属の内殻準位挙動を明らかにした。(佐藤) 5.電子ビーム描画装置を用いた金属ナノワイヤーの作成実験を行ない技術的検討を進めて来た.金属材料にはパーマロイ(NiFe合金)を主として用いている.ワイヤ幅については100nm領域ではかなり品質の良い試料が得られており,より細い試料としては10nm領域の検討を行なった.ワイヤ内の磁気構造の観察にカー効果および磁気力顕微鏡(MFM)を応用し,磁壁移動による磁化反転現象を電気抵抗を通じて検知した.磁区構造についてはマイクロマグネティックス計算との対応を検討した.ワイヤ以外にドット形状の試料を作成しており,ボルテックス磁気構造の中心に垂直磁化スポットが存在することを見出した.(新庄) 6.亜鉛フィンガーアーキテクチャー:DNA認識に基づく遺伝子制御分子の創製 ヒト転写因子Sp1由来の3つの亜鉛フィンガーモチーフを3ユニット連結した新規タンパク質を創製してそのDNA結合様式の詳細な検討を行うことにより、天然と人工のマルチフィンガータンパク質の構造・機能・活性を比較検討した。また、亜鉛のリガンドとなるアミノ残基を改変した新規亜鉛フィンガーモチーフをデザインし、その構造および機能について解析し、人工亜鉛フィンガーデザインのための価値ある情報を得た。さらに、天然の亜鉛フィンガーモチーフにDNA切断部位を導入することによりDNAの位置特異的切断に成功した。これらの知見を基に人工制限酵素や人工リプレッサーの合理的設計への展開を図っている。(杉浦) 7.鉄酸化物:Fe^<4+>を含む酸化物は高い濃度で酸素ホールを含む物質群であり、その物理的・化学的挙動は興味深い。CaFeO_3、SrFeO_3、Sr_2FeCoO_6、およびSr_2LaFe_3O_9の単結晶薄膜(レーザーアブレーション法)および塊状単結晶(高圧合成法)を世界で初めて作製することに成功し、ホール効果の測定から、酸素ホールが電荷キャリアになっていることを確認した。Sr_2FeCoO_6薄膜単結晶は、340Kを転移温度とする金属強磁性体であった。銅酸化物:(Ca,Na)_2CuO_2Cl_2の単結晶を高圧下で作製することに成功し、超高分解能光電子分光の測定から、今なお未確定な高温超伝導の機構解明に寄与するデータを得た。(高野) 8.ゲルマニウム上にかさ高い置換基を導入することにより、2-ゲルマナフタレンを安定な化合物として合成単離することに成功した。これは初めての安定な中性の含ゲルマニウム芳香族化学種の合成例である。^1Hおよび^<13>C NMR、X線結晶構造解析により、その分子構造について詳細に検討を行い、ゲルマナフタレン環がほぼ平面であり、ナフタレンやシラナフタレンと同様に芳香族性を有することを明らかにした。さらに、メタノール、ニトリルオキシド、硫黄、セレンなどとの反応について検討を行い、シラナフタレンの場合と同様に、ゲルマナフタレンが芳香族性を有しているにもかかわらず、そのGe=C二重結合部分に高い反応性を有することを明らかにした。(時任) 9.これまで有機ケイ素化合物をパラジウム触媒存在下交差カップリング反応に用いるには,フッ化物塩のような活性化剤を添加することが必須であった。しかしケイ素化合物としてシラノールを用いると,特に活性化剤を添加しなくても電子不足オレフィンとカップリングすることがわかった。ヨウ化アリールとシラノールの反応では,酸化銀を添加するとケイ素上のアリール基あるいはアルケニル基が効率良くカップリングすることを見つけた。また有機スズ化合物のアルキンへのカルボスタニル化が,パラジウムあるいはニッケル触媒を適切に選ぶことによって円滑に進行することを見つけ,ポリエンなどのパイ共役化合物の効率的合成法となることを明らかにした。(檜山) 10.ヘテロとハイブリッドによる材料の機能設計 我々は、sol-gel法あるいはスパッタ法により表面形態や積層構造を制御したTiO_2系光触媒膜の合成に成功した。これらの膜はある特殊な積層構造の場合に、可視光域で応答を示すこと、あるいは従来の数倍の光電流値を生じることを見いだした。さらに、シリカガラスの光誘起構造変化、及び光(特にArFエキシマレーザー等の高出力紫外線)照射により誘起される様々な構造欠陥の電子構造に関する理論的、実験的研究を行っている。その結果、シリカガラス中には、結晶中には存在しない非晶質材料特有の欠陥が存在し、これらの欠陥構造が、シリカガラスの光吸収や発光現象に関わっていることを見出した。強調すべき点は、我々が提唱しているシリカガラスの点欠陥は、従来考えていたものとは全く異なる構造を有するということである。さらに、我々は、理論計算及び実験結果から、これら点欠陥の生成機構及び光誘起屈折率変化に関する、より合理的かつ新規なモデルを提案することができた。(横尾) Less
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Research Products
(20 results)
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[Publications] Komatsu,K.: "The First Cyclic π-Conjugated Silylium Ion : The Silatropylium Ion Annelated with Rigid σ-Frameworks"J.Am.Chem.Soc.. 122. 9312-9313 (2000)
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[Publications] Komatsu,K.: "Efficient Synthesis of Benzene and Planar Cyclooctatetraene Fully Annelated with Bicyclo [2.1.1] hex-2-ene"J.Am.Chem.Soc.. 123. 1768-1769 (2001)
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[Publications] Saito,G.: "Formation of 2:1 Insulating Complexes of D^+ D^+ A^<2-> Alternating Stack and a 4:1 Semimetallic Complex Using M(dto)_2 Dianions (M=Ni, Pd or Pt and dto=dithiooxalate)"J.Mater.Chem.. 10(4). 893-910 (2000)
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[Publications] Saito,G.: "Reactivity of C_<60>Cl_6 and C_<60>Br_n (n=6,8) in Solution in the Absence and Presence of Electron Donor Molecules"J.Am.Chem.Soc.. 122(30). 7244-7251 (2000)
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[Publications] Sato,N.: "Unoccupied Electronic Structure in Organic Thin Films Studied by Inverse Photoemission Spectroscopy"J.Mater.Chem.. 10. 85-89 (2000)
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[Publications] Sato,N.: "Dependence of Optical Absorption Spectra on Structures of Bis (1,2-benzoquinonedioximato) Pt (II) Thin Films"Mol.Cryst.Liq.Cryst.. 342. 121-126 (2000)
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[Publications] Shinjo,T.: "Reduction of magnetic moments in very thin Cr layers of Fe/Cr multilayers"Phys.Rev.Lett.. 84. 2243-2245 (2000)
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[Publications] Shinjo,T.: "Magnetic vortex core observation in circular dots of permalloy"Science. 289. 930-932 (2000)
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[Publications] Sugiura,Y.: "Artificial Zinc Finger Peptide Containing a Novel His_4 Domain"J.Am.Chem.Soc.. 122. 7648-7653 (2000)
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[Publications] Sugiura,Y.: "Artificial Zinc Finger Peptides : Creation, DNA Recognition, and Gene Regulation"J.Inorg.Biochem.. 82. 57-63 (2000)
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[Publications] Takano,M.: "Single Crystal Growth of the High Pressure Phase of (VO)_2P_2O_7 at 3 GPa"J.Solid State Chem.. 153. 124-131 (2000)
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[Publications] Takano,M.: "Antiferromagnetic Ordering of S=1/2 Triangles in La_4Cu_3MoO_<12>"Phys.Rev.B,. 62. R3588-R3591 (2000)
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[Publications] Tamao,K.: "Tri-9-anthrylborane and Its Derivatives : New Boron-Containing π-Electron Systems with Divergently Extended π-Conjugation Through Boron"J.Am.Chem.Soc.. 122. 6335-6336 (2000)
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[Publications] Tamao,K.: "Structures of [(Amino) phenylsilyl] lithiums and Related Compounds in Solution and in the Solid State"J.Am.Chem.Soc.. 122. 1919-1926 (2000)
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[Publications] Tokitoh,N.: "The First Stable Heteracyclopropa-benzene : Synthesis and Crystal Structure of a Silacyclopropabenzene"J.Am.Chem.Soc.. 122. 4829-4830 (2000)
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[Publications] Tokitoh,N.: "Crystal Structure of a Stable Silabenzene and Its Photochemical Valence Isomerization into the Correspondin Silabenzvalene"J.Am.Chem.Soc.. 122. 5648-5649 (2000)
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[Publications] Hiyama,T.: "Nickel-catalyzed Acylstannylation of 1,3-Dienes : Synthesis and Reaction of Epsilon-oxoallylstannanes"J.Am.Chem.Soc.. 122. 9030-9031 (2000)
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[Publications] Hiyama,T.: "Regio^- and Stereocontrolled Hydrosilylation Polyaddition Catalyzed by RhI(PPh_3)_3. Syntheses of Polymers Containing (E) - or (Z) -Alkenylsilane moieties"Macromolecules. 33. 1115-1116 (2000)
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[Publications] Yoko,T.: "Structural Study of PbO-B_2O_3 Glasses by X-ray Diffraction and ^<11>B MAS NMR Techniques"J.Am.Ceram.Soc.. 83(10). 2542-2548 (2000)
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[Publications] Yoko,T.: ""Structure and Formation Mechanism of Ge E' Center from Divalent Defects in Ge-doped SiO_2 Glass""Phys.Rev.Lett.,. 84. 1475-78 (2000)