Research Abstract |
1.典型元素の特性を活かしたσおよびπ共役系の機能修飾 (1)元素の配位数変化に基づいた有機エレメント化合物の光物性制御.配位数変化に基づく光物性制御という新概念の一般化を目指し,典型元素上に3つのアントリル基を導入した一連のトリアントリル元素化合物における配位数-光物性相関の解明を行った.13族元素としてホウ素,14族元素としてケイ素,15族元素としてリンを用いた場合について検討し,それぞれの中心元素に特異な様式で光物性の制御が可能であることを示した. (2)新ケイ素反応活性種「シライリド」に対する元素効果.8-ジメチルアミノ-1-ナフチル基を有する分子内配位シリレンがシライリドとしての反応性を示すことをすでに明らかにしている.今回,分子内配位塩基の効果の検討により,このシライリドの反応性の理解を図った.ジメチルアミノ基のかわりにアルコキシ基をナフチル基上に導入した場合には全く反応が進行しなかったのに対し,ジフェニルホスフィノ基およびフェニルチオ基を導入した場合には,アミノ基の場合とは全く異なる生成物を与えることを明らかにし,二価ケイ素種シリレンの反応性を分子内配位する元素の種類により制御可能であることを初めて示した.(玉尾) 2.σ-π共役および三次元π共役系新規化合物の合成 剛直なビシクロ炭素骨格が縮環し,広いп電子系をもつ縮合芳香環トリフェニレンを新たに合成し,これが高いHOMOを有する新規пドナーであるが,対応するラジカルカチオンは転位し,σ-п共役によって高度に安定化したアレニウムイオンの塩を与えることを見出した.また,より歪みの大きいビシクロ骨格の3個縮環したベンゼンは容易に一電子酸化を受け,異常な結合交替をもつ新規ナフタレン誘導体を与えることを明らかにした.一方,初めてのアルキルフラーレンカチオンの発生法を確立し,これがt-ブチルカチオンと同程度の熱力学的安定性をもつことを明らかにした.また,高速振動粉砕法を用いる固体反応にり,ケイ素架橋と単結合によって結ばれた新しいC_<60>二量体の合成に初めて成功したことに加え,同手法によりHeを内包したフラーレン二量体C_<120>を合成し,その反応性を明らかにした.さらに,ジアザおよびトリアザ芳香族環とC_<60>との熱反応により,三次元п共役表面に8員環の開口部をもつC_<60>誘導体を合成し,光化学的酸素酸化に
… More
よりこの開口部を12員環へと拡げることに成功した.(小松) 3.ヘテロ元素π共役系を用いたエキゾチックな有機導電体・超伝導体の開発 (1)ET系有機超伝導体のTc制御:Tcが制御可能なκ-(ET)_2Cu^+_<(2-x-y)>Cu^<2+>_x(Cu)_<(3-2y)>[N(CN)_2]_yの構造モデルを提出した.κ-(ET)_2Cu_2(CN)_3について,一軸歪み条件下で,静水圧下に比べ,約2倍のTcを発現させた。(2)BOおよび類縁体の錯体:新型金属-絶縁体転移(昨年度報告)を示す二例目の錯体を見出した.(3)水素結合能を持つ分子を用いた錯体:ETとシアナニル酸の錯体を検討し,水素結合による導電性成分の結晶構造と錯体物性の制御の可能性を示した.(4)C_<60>系超伝導体:C_<60>と遷移金属が共有結合を持つ新規な物質を得た.(5)Fermi面を持たない金属的錯体:HMTTeF錯体から,Fermi面を持たない金属を得た.結晶中の中性・イオン性領域のドメイン壁の移動が伝導機構であると推定された.(6)有機単成分導電体:双性イオン構造を持つTTF誘導体を開拓し,分極性の大きな陰イオン部分が,導電性の向上に有用であることを見出した.(7)D-π-A型分子内電荷移動錯体:分子内電荷移動化合物の電荷移動度の決定方法を確立した.(8)有機導電性液体:低い融点を持つドナー分子を用い,その比抵抗が融点近傍で約5桁急減する錯体を得た.(斉藤) 4.分子集合体中の分子内/分子間の異種原子間相互作用に基づく特徴的電子構造の把握・解明 分子集合体の構造・機能相関を元素科学の立場から調べるには,分子内・分子間で異種原子の間に働く特異な電子的相互作用を捉えることが肝要であり,それを目指した研究を観測方法の開発も交えながら進めている.とくに,分子集合体の電子物性発現を支配する価電子状態と低エネルギー空状態の電子構造の双を同一試料について的確に把握するための測定系を,段階を追って自力で設計・製作しており,当初の計画に従った進捗状況に導いている.一方,既存の測定系を用いての実験研究も対象と目的を鮮明にしながら進めており,前年度から注目している金属フタロシアニンの中については安定ラジカルのリチウムフタロシアニンを取り上げ,薄膜多形に依存した分子間相互作用の違いに基づく空状態の電子構造変化を初めて直接的に観測した.また,独自の分子設計に基づき最近開発したヘテロ原子を含むドナー・アクセプター結合型高度両性分子の蒸着薄膜について,その調製条件により結晶特性力蜜わることを確認し,分子特性を踏まえた分子配向に基づく電子構造の制御に可能性を見いだした.(佐藤) 5.各種金属ナノワイヤの作成と評価 電子ビーム描画装置を用いて金属磁性体の微小ワイヤあるいはドットを作成し,その磁気構造や磁化反転特性を検討している.本年はドットについての研究を中心に推進し,ボルテックススピン構造の中心の垂直磁化スポットの反転磁場をMFM測定によって評価した.枕木状磁区構造を持つ矩形状磁性体ではボルテックスとアンチボルテックスが存在し,その交点には常に垂直磁化スポットが存在することを確認した.直径約1ミクロンの単一ドットの抵抗測定を行い,MFMとAMRの対比から磁化反転過程の検討を行うことができた.磁性体ワイヤをナノスケールの接点によってコンタクトし,磁気抵抗効果を測定しているのが,今の所AMRとして予想される以上の大きなMR効果の発現にはいたっていない.(新庄) 6.亜鉛フィンガーアーキテクチャー:DNA認識に基づく遺伝子制御分子の創製 ヒト転写因子Spl由来の3つの亜鉛フィンガーモチーフを基に,フィンガーの位置交換,フィンガー数の改変,並びにフィンガーをつなぐリンカー配列の改変の3点が亜鉛フィンガーのDNA生結合様式に及ぼす影響について追究し,(1)亜鉛フィンガーはDNA結合において3フィンガーで1ユニットとして機能すること,(2)カルボキシル末端側の2つのフィンガーのDNA結合により誘起されるDNAの局所的な構造変化が,アミノ末端側のフィンガーのDNA結合に影響を及ぼすこと,(3)リンカー配列改変により・関連フィンガーのDNA結合をスイッチ可能であること,を明らかにした.さらに,亜鉛フィンガーの標的DNA配列の周辺の塩基配列に起因するDNA構造の相違が,亜鉛フィンガーのDNA結合親和性に及ぼす影響についての検討も行い,周辺塩基配列の重要性を明らかにした。(杉浦) Less
|