2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12F02795
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
上田 佳宏 京都大学, 理学研究科, 准教授
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
RICCI Claidio 京都大学, 理学研究科, 外国人特別研究員
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Keywords | X線 / 活動銀河核 / ブラックホール |
Research Abstract |
巨大ブラックホールの周辺には、トーラスと呼ばれる構造物が普遍的に存在すると考えられている。これは巨大ブラックホールへの質量供給の源であり、銀河形成との関係を探る上で鍵となる構造であるにも関わらず、その性質はほとんど分かっていない。本年度は、おもにチャンドラ衛星のHETGS装置によって過去に取得された近傍宇宙に存在する活動銀河核(AGN)のX線スペクトルを用いて、トーラスから放射されていると考えられる蛍光鉄K輝線に着目した統計的研究を行なった。鉄K輝線の連続成分に対する強度(等価幅)は、AGNの光度と逆相関を示すことが知られている。この傾向は「X線Baldwin効果」とよばれ、10年以上前から報告されていたが、その物理的起源についてはよく理解されていなかった。いっぽう、近年のX線探査により、光度が大きくなるほど、塵やガスによって吸収されたAGN(2型AGN)の割合が少ないという関係が確立してきた。この観測事実は、トーラスの巨大ブラックホールを見込む立体角が、AGN光度と逆相関していることを意味し、AGN放射によるフィードバックの影響が示唆されている。そこで今回、モンテカルロ法による、トーラスからの反射成分を考慮したスペクトルモデルを用いて、この効果を定量的に調査した。観測された2型AGNの割合から、トーラス構造を光度の関数として与え、そこから放射される鉄K輝線強度を計算したところ、観測された鉄K輝線の等価幅と光度の関係が見事に説明できることをつきとめた。今後の研究のために「すざく」衛星のアーカイブデータを整理した。さらに、ASTRO-H衛星によるシミュレーションを行ない、初期観測天体の選定にむけて議論を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
わずか4か月という短期間にも関わらず、上の述べた研究を効率よく進め、査読論文へ投稿できるレベルの結果をまとめることができた。また次年度に向けての研究準備も着々と進んでおり、複数の論文執筆を開始するなど、今後、大きな具体的成果が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
「X線Baldwin効果」の起源をさらに追求し、その物理的起源を確立する。具体的には、連続スペクトルの形が、光度に対する依存性をもつことに注目し、その違いが鉄K輝線の等価幅にどの程度影響があるかを定量的に調査する。 また、赤外線データを用いて得られたトーラスの立体角の情報と、そこから予想される鉄K輝線強度の関係をトーラス構造を仮定したモンテカルロ計算を通して比較し、その妥当性を検討する。このためにXMM-Newton衛星および「すざく」衛星による多数の近傍AGNのデータ解析を進める。情報収集および成果発表のため、複数の国際会議にて発表する。また、ASTRO-Hの科学会議に参加し、初期観測計画について議論を進める。
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