2013 Fiscal Year Annual Research Report
野生チンパンジーの集団における離・散を内包した社会構造と社会的境界の生成プロセス
Project/Area Number |
12J00004
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
花村 俊吉 京都大学, 野生動物研究センター, 特別研究員(PD)
|
Keywords | 野生チンパンジー / 集団 / タンザニア / 霊長類社会 / 社会観 / 人間と動物の境界 / 社会構造 / 社会的境界 |
Research Abstract |
野生チンパンジーは、集団を構成するメンバーが離合集散し、メスが集団間を移出入する。本研究の目的は、チンパンジーの集団の生成機序や個体間の共存機構を、主に移入メスの立場から分析し、人間や他の霊長類の社会と比較・考察することである。本年度は、前年度の予備調査の結果を踏まえて、タンザニアのマハレ山塊国立公園にて約一ヶ月間、チンパンジーのM集団を対象に野外調査をおこなった。また、収集した記録を分析し、以下のような成果を国際シンポジウムで発表した。これまで、移入メスは、採食場面で在住メスに威嚇・攻撃され、その際に在住オスから援助を受けるため、在住オスを追随すると言われてきた。しかし、在住メスより在住オスが頻繁に移入メスを攻撃しており、在住メスが移入メスを援助することもあった。そして、在住メスから受けた威嚇・攻撃も、その多くは採食場面ではなく、移入メスが在住メスやその子どもたちに積極的にアプローチし、遊びの最中などにその子どもたちが悲鳴をあげたことで生じていた。また、一部の移入メスは、特定の在住メスを追随することがあった。移入メスの在住個体との共存に、在住オスだけでなく、在住メスとの社会関係も影響している可能性が示唆された。 また、チンパンジーの集団の生成機序について、英文共著論文集の一章としてまとめた(次年度出版予定)。そこでは、チンパンジーM集団の個体たちが、季節によっては、長距離音声を介した相互行為と頻繁な離合集散を通じて、視覚を超えたゆるやかなまとまりを形成することを示した。さらに、チンパンジーがヒョウに捕食された事例を通じて人類社会の進化と捕食者の関係について考察し、英文学術雑誌に共著論文として出版した。そのほか、フィールドでの観察者(私)と対象動物との相互行為の分析を通じて、人間と動物の境界や人間が霊長類社会に投影する社会観について考察し、研究会等で発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の遂行には、野生チンパンジーを対象とした野外調査が必須である。本年度は、前年度の予備調査によって、調査対象集団のチンパンジーの個体識別、観察対象個体の選択、具体的に収集する記録の検討が済んでおり、当初の計画通りの本調査を進めることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度の予備調査、本年度の本調査の結果を踏まえ、タンザニアの野生チンパンジーを対象にした野外調査を継続するとともに、これまでに収集してきたチンパンジーやニホンザルの相互行為や遊動の記録を分析・考察し、離・散を内包する集団の生成機序や共存機構についての研究成果を発表していく必要がある。また、ヒト以外の霊長類の集団と人間の集団との差異や連続性を比較検討するために、関連文献の収集・考察にも力を入れる必要がある。
|
Research Products
(5 results)