2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J00219
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
塩足 亮隼 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 走査トンネル顕微鏡 / 走査トンネル分光 / 価電子状態 / 水素結合 |
Research Abstract |
本研究は、表面吸着分子の価電子状態と反応性・スピン状態との相関を明らかにし、価電子状態を制御することで単分子レベルの物性制御を達成することを目的としている。当該年度は、走査トンネル顕微鏡(STM)による単分子レベルの物性評価手法を用いて、銅表面上に吸着した一酸化窒素(NO)分子の価電子状態の解明、および、水分子との複合体形成によるNOの価電子制御を試みた。次にその詳細を記す。 1.Cu(110)表面に吸着したNOの価電子状態の解明 低温において、Cu(110)表面にNO単分子は垂直に吸着しており、その価電子軌道(2π*)が分子に局在していることをSTM観察によって明らかにした。さらに、走査トンネル分光(STS)による詳細な電子状態の測定によって、直交した2つの2π*軌道は、表面の異方性に依存して異なるエネルギー準位を持つことが明らかになった。 また、STMによる非弾性トンネル分光(IETS)測定によって、NO単分子の振動状態が検出された。この振動スペクトルの形状と空間分布は、NOの価電子状態・スピン状態と密接な関係があることが示唆された。 2.水分子とNO間に形成された水素結合によるNOの価電子状態の変調 Cu(110)表面上に水(H2O)とNOを共吸着し、STM実験を行った。STMによる単分子操作によって、NO単分子とH2O単分子を接近させることにより、複合体(NO-H2O)を作成した。STM・STS測定によって、この複合体においてNOとH2Oとの間に水素結合が形成されており、NOの2π*準位が低エネルギー側にシフトしていることが明らかになった。気相におけるNOとH2Oとの間の相互作用は非常に弱いことから、表面から分子への電荷移動によって水素結合が強められていると推測した。さらに、水素結合ドナー分子をH2Oから水酸基やアルコール分子に変更することでNOの2π*準位のエネルギー位置を変化させることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当該年度に実施したCu(110)表面上のSTM・STS測定によって、NO分子と水素結合ドナー分子との複合体形成に伴いNOの価電子準位のエネルギー位置が変調されることが明らかになった。この複合体のドナー分子種の変更することで価電子準位のエネルギー位置を変化させることができ、研究の目的の一つであった価電子状態の制御が達成された。以上の理由から、当初の計画以上に進展したと評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
該当年度に実施したNO単分子のIETS測定結果は、NOの価電子状態・スピン状態と密接な関係があることが示唆された。これらの物性の相関をより明らかにするために、理論計算グループとの共同研究を進めていく。 水素結合系によるNOの価電子状態の変調に成功したことから、アルカリ金属とNOの共吸着系においてもNOの価電子状態に影響を与えることが大いに期待される。従って当初の計画通り、NOとアルカリ金属との共吸着実験を遂行する予定である。 さらに、より多角的に表面吸着分子の物性情報を得るため、海外の研究機関に赴き、試料にレーザー照射が可能なSTM装置を用いた実験を行うことを計画している。
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Research Products
(8 results)