2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J00219
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
塩足 亮隼 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 走査トンネル顕微鏡 / 走査トンネル分光 / 価電子状態 / 水素結合 / 探針増強ラマン分光 |
Research Abstract |
本研究は、表面吸着分子の価電子状態と反応性・スピン状態との相関を明らかにし、価電子状態を制御することで単分子レベルの物性制御を達成することを目的としている。当該年度の前半は、走査トンネル顕微鏡(STM)によそ単分子レベルの物性評価手法を用いて、銅(Cu)表面に吸着した一酸化窒素(NO)分子の価電子状態の制御を試みた。さらに、後半は、ドイツ・ブリッツハーバー研究所への研究渡航を実施し、そこで探針増強ラマン分光(TERS)による数十ナノメートル規模の振動分光実験を行った。次にその詳細を記す。 1. 水分子によるCu(110)表面上のNO分子の還元反応の誘起 Cu (110)表面に水とNOを共吸着し、低温(6K)におけるSTM実験を行った。STMによる単分子操作によって水単分子をNO単分子に接近させることで複合体を作成した。この複合体において、NOの価電子準位が水との水素結合によって銅基板からの電子移動を受けており、N-0結合が弱められていることを走査トンネル分光(STS)によって明らかにした。さらに、もう一つの水単分子をその複合体に接近させることで、更なる電子移動によってN-0結合を切断すそことに成功した。12Kという低温においてこの反応が自発的に進行することから、このNO還元反応は触媒メカニズムの理解に大きく寄与することが推測される。 2. 探針増強ラマン分光法によるグラフェンナノリボンの観察探針増強ラマン分光(TERS)は、STMによる表面分子の直接観察とラマン分光による振動分光によって相補的にナノスケールの物性情報を得ることができる装置である。その利点がありながらも、先行研究では熱ドリフトや試料・探針の汚染などによってラマン信号の再現性が乏しいことが指摘されていた。今回、ナノスケール炭素材料の一種であるグラフェンナノリボン(GNR)を試料として、超高真空下で稼働するTERS (UHV-TERS)の機能性の評価を行った。金表面上に幅約1nmの均一なGNRを作成し、TERS測定を行った。グラフェン由来のピークの解析により、少数分子レベルのラマン分光において見られる明滅効果の存在を確認し、それが主に探針構造の熱的な変化によって引き起こされていることを提唱した。以上の結果から、今後高再現性のTERSデータを得るためには、安定性の高い探針や低温測定が可能な装置の開発が必要になることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
STMによる単分子操作と局所電子状態測定を組み合わせることによって、水分子との水素結合による価電子状態の変調の制御、および、それによるNO還元反応の誘起に成功した。これは、価電子状態を単分子レベルで制御し、価電子状態と電子状態や反応性の相関を調べるという本研究の目的の一部を達成した結果といえる。さらに、約6か月間のドイツへの研究渡航中に、探針増強ラマン分光によるナノ炭素素材の構造と振動状態の評価に成功した。今後、この手法をSTMによる単分子操作と組み合わせることによって、ナノスケール物性の理解と制御に大きく貢献することが期待できる。以上の理由から、当初の計画以上に進展したと評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
当初、表面吸着分子のスピン状態の実験測定を計画していたが、試料のスピン特性と実験装置の特性を考慮し、共同研究による理論計算を主体として考察を進める予定である。 これまでのSTM実験による研究で、NOの価電子状態が銅基板の構造に大きく依存することが示された。今後は、面方位の異なる様々な銅基板を利用して、より総括的に価電子状態と表面準位との相関を明らかにしていく予定である。
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Research Products
(7 results)