2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J00322
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
松本 卓士 筑波大学, 大学院・数理物質科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | スピンクロスオーバー / 多重双安定性 / LIESST / 鉄イオン / 多核錯体 |
Research Abstract |
d^4からd^7電子配置をとり、六配位八面体構造をもつ第一遷移金属イオンは、配位子場の強さに依存して低スピン(LS)状態または高スピン(HS)状態をとる。例えば鉄(II)イオンは反磁性状態であるLS状態(S=0)と常磁性状態であるのHS状態(S=2)をとり、温度や圧力、光などの外部刺激によって可逆に磁性を変換することができるスピンクロスオーバー(SCO)挙動を示す。特に光によるSCO現象はLIESST (Light-Induced Excited Spin State Trapping)といい、次世代磁気デバイスへの応用が期待されている。これまでのメモリ素子ではON状態と0FF状態をスイッチングするものが主流である。"0"と"1"のみからなる二進数のメモリは情報密度が低いのに対し、0,1,2,...のように多様な状態をとれる分子素子を開発できれば、情報密度の高いデバイスになることが期待され、その実現は21世紀における高度情報化社会の発展において急務の研究課題といえる。複数のSCO部位を1つの分子に集積化し、複数の安定状態をもつ「多重双安定性・多重安定性分子」を構築することができれば、外場に応じ多段階状態変化を示す新しい分子性機能材料となることが期待できる。本研究では「分子で光による多段階磁性スイッチングの実現」を目的として混合原子価錯体[Fe^<II>_2Fe^<III>_2L_4](BF_4)_6・6CH_3NO_2・(CH_3CH_2)_2O([Fe-<II>_2Fe^<III>_2])の特異なLIESST現象について研究を行った。5Kに保ったSQUIDチャンバー内において、[Fe^<II>_2Fe_2^<III>]のFe(II)MLCTバンドに対応する532nmのレーザー光照射実験を行ったところ、χ_mT値は増加し、[(LS-Fe^<II>)_2(LS-Fe^<III>)_2]→[(LS-Fe^<II>)(HS-Fe^<II>)(LS-Fe^<III>)_2]にFe(II)イオンが選択的に光スピン転移した。また532nmのレーザー光を照射した後、続けて808nmのレーザー光(LS-Fe(III)LMCTバンド)を照射すると、さらなる磁化率の増加を観測し、Fe(III)イオンが選択的にスピン転移し[(LS-Fe^<II>)(HS-Fe^<II>)(LS-Fe^<III>)_<1.5>(HS-Fe^<III>)_<0.5>]となった。5Kにおける光照射^<57>Feメスバウアースペクトルもこの挙動を支持している。すなわち[Fe^<II>_2Fe^<III>_2]は励起光の波長に依存して、スピン状態を選択的に制御できる磁気的三安定性錯体であることを見出した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
混合原子価状態をもつ多重双安定性分子の合成に成功し、Fe(II)イオンおよびFe(III)イオンの分子内スピン転移挙動を初めて観測した。各双安定性部位の吸収をレーザー光により選択的励起することで多段階LIESSTという新しい現象を観測した。
|
Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの研究によって見出された「選択的多段階光励起現象」に伴う多重物性発現の制御の可能性について研究を行う。具体的には多段階LIESSTによる単分子磁石機能や誘電性の多段階制御を視野に入れた分子・配位子設計を行う。また多重双安定性分子を基板上に配列させ分子デバイスへの展開を試みる。
|
Research Products
(6 results)