2012 Fiscal Year Annual Research Report
16世紀ニザーミー詩編の挿絵様式とその変遷にみられる制作原理の究明
Project/Area Number |
12J00334
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
千葉 昌子 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 写本絵画 / ペルシア詩 |
Research Abstract |
本年度は英国の大英図書館と、アイルランドのチェスター・ビーティー図書館において、計18写本を実見した。特に1553年制作とされる写本(チェスター・ビーティー図書館所蔵、P.224)は、ニザーミー五部作の内、第一作目『神秘の宝庫』のみを含む小型の作例であったが、《ヌーシールヴァーンと従臣》の場面に挿絵が付けられており、白い壁や廃嘘の様子等、シャー・タハマースブ(在位1524-76年)のニザーミー写本(大英図書館所蔵、or.2265)と同類型と思われる挿絵の描き方を確認できた。これは1539-43年とされるOr.2265の制作年代や、その後の修復時期の再検討につながる情報といえる。また、18写本全体を通じて『神秘の宝庫』部分の異文の比較を行ったところ、異文の組み合わせに傾向がみられ、挿絵の様式分析を補助する可能性もあるように思われた。 16世紀周辺に制作された18写本の情報を収集し、それらの形態を記録したことで、日本国内に所蔵されている中東由来の写本絵画を鑑賞する際の参考資料ともなり得る。現段階では、出光美術館に16世紀制作とされるニザーミー写本の所蔵を確認した。来年度にむけて、その写本の詳細を国内外の研究者が効率的に把握できるように記録している。その記録を本年度蒐集することができた18写本の情報と比較することで、国外に現存するニザーミー写本群における出光美術館本の位置付けを概観できる。一方、実際に国内でその写本が鑑賞される場合に備え、各々の挿絵に対応する物語のあらすじを日本語と英語にてまとめることで、挿絵に何が描かれているのかという一般的疑問を解消する資料を用意しておきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は当初の計画どおりに関連写本の情報を収集することができたものの、それらの情報を発表するまでには至らなかった為、計画にやや遅れがみられるといえる。その遅延の一因には、Or.2265の全頁を実見し、後世における著しい修復状況が判明したことが挙げられる。16世紀に制作された部分と、その後に補修された部分とを区別し、その判断の根拠をなるべく多数の同類型の写本に探す必要があった。現在は、引き続き関連写本の情報を追加すると共に、それらの分析からOr.2265の修復の回数や修復部分の特色を改めて特定中である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はOr.2265の修復部分を目視によって抽出した上で、それらの特色を15世紀後半から16世紀中盤に制作された関連写本と照合し、16世紀前半までに継承されていた挿絵の伝統と、それ以降の挿絵の描かれ方とを比較する。そのような挿絵の様式分析に基づき、改めて詩文と挿絵との相関関係がみられる作例を収集し、具体的な描かれ方を対応表にまとめる。また、挿絵の解釈の実証性を高める為に、挿絵制作の伝統として継承された装飾的図案群と、詩文との関連がみられる図案群とを分類する、そして同時代史料から宮廷文化に関する記述を集めるという二つの方策を予定している。それらの情報を組み合わせることで、16世紀に転換がみられたと思われる挿絵の制作原理の究明につなげたい。
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