2012 Fiscal Year Annual Research Report
近代建築概念形成期における世界観的前提の諸相とその相関・系譜に関する研究
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12J00400
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
江本 弘 東京大学, 大学院工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ジョン・ラスキン / 近代建築史 / アーツ・アンド・クラフツ / 機械美学 / エソテリシズム |
Research Abstract |
本年度においてはまず、ラスキン受容史関連の既往研究を調査した。これによって、近年美術・文学史分野においてラスキン受容史研究が進展していること、特に、チェコやロシアを始めとした東欧地域を対象にした研究が充実し始めていることが分かった。 史料調査については、各国のインターネット・アーカイブの探索をもとに、国内で入手可能なラスキン言及史料のデジタルデータ収集に努めた。これによって特に、フランスにおける史料は悉皆に近い収集ができ、その他ドイツ、オーストリアおよび英語圏史料の収集に大きな進捗があった。 インターネットで収集できない史料については所蔵図書館での調査を行った。まず、イギリスの雑誌the Builderの19世紀史料(京都大学所蔵)を悉皆調査した。また、チェコ国立図書館、チェコ工科大学図書館の調査では、同国のラスキン言及史料についてのほぼ理想的な悉皆収集ができた。 これらの調査によって、1900年前後の欧米建築界におけるラスキン受容の概観が明らかとなった。アメリカのラスキン受容は本国イギリスとほぼ並行の現象(1840年代~)であり、年代としてはフランスがそれに続く(1880年頃)。その後の世界的なラスキン受容にはロベール・ド・ラ・シズランヌ著『ラスキンと美の宗教』(1893年)の影響が強く、同時期のアーツアンドクラフツ受容、ラスキン没(1900年)などの出来事とともにラスキンの名が盛んに言及されるようになる。一方、レオ・スタイン「ラスキンの敗北」(1919年)の発表時期にはラスキンの美学観、社会観は旧弊なものだとして各地で強く排斥されるようになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
史料調査は順調である。既往研究はほぼ網羅されたものと言える。史料収集については、一部の国について悉皆に近い成果が上がり、今後の調査のための史料の所在調査も十分に進んだ。これらをもとに研究対象の概観把握もでき、トピックの設定にも目途がついた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究によっては、1900年前後の建築界ラスキン受容におけるアンリ・ヴァン・ド・ヴェルドの重要性が浮上した。これまで史料調査の及んでいない地域については、まず、ヴァン・ド・ヴェルド受容およびドイツ工作連盟受容という観点から調査地の選別を行い、間接的にラスキン受容の実態を探る、という方法をとるのが合理的であると考えられる。北欧諸国の調査がこの点では喫緊である。
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