2013 Fiscal Year Annual Research Report
近代建築概念形成期における世界観的前提の諸相とその相関・系譜に関する研究
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12J00400
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
江本 弘 東京大学, 大学院工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ジョン・ラスキン / 近代建築史 / アーツ・アンド・クラフツ / 機械美学 / エソテリシズム |
Research Abstract |
先年度の史料探索の成果を受け、25年度研究においては、フィンランド、スウェーデン各国において、日本国内では入手不可能なジョン・ラスキン受容関連史料の探索を行い、フィンランドについては十分数の史料を収集した。 本研究の主目的は、ジョン・ラスキンの受容史を通じて近代建築概念の変遷を明らかにすることである。この点に関し、特に北欧調査は重要な視座をもたらした。 この調査によってはまず、純粋合理主義建築思潮、エンジニア美学の萌芽がフィンランドにあったことが示唆され、この潮流がベルギーの建築家であるアンリ・ヴァン・ド・ヴェルドの活動が直接的な契機となっていることが判明した。20世紀初頭当時の機械美学論は主にヴァン・ド・ヴェルドほか、その周辺の建築理論家たち(ドイツのH・ムテジウス、オーストリアのA・ルックスら)によって展開されたものであるが、彼ら全てが19世紀末にラスキンの思想を積極的に受容した人物たちであったことは特筆に値する。 1920年代、ラスキンは「装飾的」建築観の象徴として全世界的に排斥されることとなるが、その前段階においては、ラスキンの建築論は合理的色彩を帯びたものと解釈されることが可能だった。また、これらの国々に関するラスキン受容調査の副次的な成果として、1900年前後の建築言論界における国際的な情報のネットワークが、より具体的なものとなった。このネットワークのうち、服飾改良運動にかかわるものは、ラスキンの生徒であったオスカー・ワイルドから始まり、大陸の建築家も多数参画したものであり、彼らの服飾観・装飾観の形成および「ラスキン」のイメージ形成の双方にとって重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
史料調査は順調である。研究の全体の統一性を導くサブトピック群の設定については史料読解を踏まえて目途がついており、それらの全体像を研究会で発表した。一方、個別事例についての調査の深化および文章化については遅れ気味の感がある。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの史料探索によって、数カ国を除き、論の構築に必要な十分量の史料が収集できたものと考えられる。これからの課題は、それらを全体構想に則り統合することである。そのためには、サブトピックに則った内容を早急に文章化・論文化していくことが求められる。 史料収集の十分に及んでいない言語圏、特にロシア語圏については、当該国のアーカイビングが不十分なことから、現地に赴いた合理的な史料収集が求められる。これについては先行研究を中心とした事前の情報収集に努め、早期の現地調査を行わなければならない。
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Research Products
(1 results)