2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J00489
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
鈴木 彩加 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 保守運動 / 社会運動 / ナショナリズム / ジェンダー / フェミニズム |
Research Abstract |
本研究の目的は、現代社会において保守運動が活発化した背景をジェンダーの視点から明らかにすることである。1990年代以降、草の根レベルで保守運動が活発化している。現代の保守運動研究については、「新しい歴史教科書」を扱った小熊英二・上野陽子(2003)と、「在日特権を許さない市民の会」を扱った樋口直人(2012)があげられるが、いずれも90年代以前の保守運動との関連性は未だ明らかにされていない。また、保守運動研究の蓄積がある合衆国では、フェミニズム研究においても保守運動の女性参加者が研究されているが、日本ではジェンダーの視点を導入した保守運動研究は行われていない。本年度実施した研究内容は以下の2点である。 (1)保守運動組織の女性参加者に着目した通時的分析:女性が保守運動にどのように参加してきたのかを明らかにするため、日本会議と日本遺族会という戦後日本の二大保守系団体の会報分析を行った。その結果、両団体ともに運動の中心的担い手として女性を包摂するという共通点がみられた。他方で、日本会議は家庭での母親による育児が重要視されていたが、日本遺族会ではそのようなイメージが運動において用いられていないという相違点がみられた。 (2)女性による草の根保守運動の実証研究:女性が主体となって結成され活動している草の根レベルの保守運動の特徴を明らかにするため、四国地方で活動している保守系市民団体において、これまで行ってきたフィールドワークの分析・考察を行い、女性参加者が家事・育児・介護などの家庭内ケアを担ってきた立場からとくに男女共同参画に反対していることを明らかにした。『年報人間科学』へ投稿論文として提出、査読審査のうえ掲載された。 【参考文献】樋口直人,2012,「排外主義運動へのミクロ動員過程-なぜ在特会は動員に成功したのか」『アジア太平洋レビュー』9:2-16.小熊英二・上野陽子,2003,『〈癒し〉のナショナリズム-草の根保守運動の実証研究』慶應義塾大学出版会.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の現在までの達成度は、おおむね順調に進展している。本年度の研究は保守運動の女性参加について歴史的経緯を明らかにした。この平成24年度の研究は、現代社会において保守運動が活発化した背景をジェンダーの視点から明らかにするという研究目的を達成するうえで、理論構築の土台となる重要な位置を占めるものである。よって、上記のとおり評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は、保守運動の運動史を明らかにすることである。平成24年度の研究からは、これまでも保守運動に女性は参加してきたが、保守主義のイデオロギーにおいて家庭での母親による育児が強調され出したのは現代的な事象であることが明らかとなった。このようなジェンダーに関連する主張が積極的になされたことの背景は、保守運動の大衆化・草の根化との関連で論じる必要があるといえる。そこで、今後の研究は、複数の保守系団体・右派宗教団体の機関誌・会報・ミニコミの資料分析から保守運動の運動史を明らかにし、大衆運動化・草の根化の経緯と、そのことによって美化された育児イメージがどのように運動に用いられているのかを明らかにする。
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