2012 Fiscal Year Annual Research Report
自閉症児者と養育者との関係障碍改善と関係発達を促す援助法・評価法の開発
Project/Area Number |
12J00498
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
榊原 久直 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 関係障碍 / 関係発達 / 自閉症 / 臨床動作法 / のびのび・どっしり体操 / 相互主体性 / 間主観性 / 気になる子 |
Research Abstract |
自閉症児者と養育者を対象として関係障碍のアセスメント面接の考案を目的とした研究を行った。また両者の関係援助の理論化とその効果を測定する方法を検討した。 1.障碍者入所施設においてインタビューとアンケートを実施し,職員が体験する利用者の介助困難場面の頻度とその認知的評価を測定する尺度を作成した。信頼性・妥当性の検討研究を行うのと並行して,施設への関係援助を行った。介入の結果,臨床動作法という体を介したコミュニケーション活動は,利用者の行動変容をもたらすだけでなく,職員に利用者の感情や意図に注意を向ける機会となり,意志ある主体として障碍者を再認識し,関係において生じる不快感が減少し,職員の精神的健康度の上昇へと繋がることが示された。 2.保育所において「気になる子」と称される発達障碍傾向のある園児と担当保育士らの関係障碍の実情を把握すると共に,その関係援助的介入の実施を探索的に行った。臨床動作士の有資格者である中野弘治と共に,臨床動作法および母子セラピーの観点から「のびのび・どっしり体操」を作成し,近畿地方,九州地方の保育所11園において,88名の園児とその担当者を対象に行った。発達障碍傾向のある園児は対人面の困難さや言語面の問題だけでなく,それらの土台となる身体面の発達に特異性が多く報告され,また園児が体を委ねる,体の軸を形成することがなされだした時期に,問題行動の減少,保育士の園児への感情の葛藤の提言などが見られた。 3.前言語期の自閉症児とその養育者2組に行った半年間の介入行い介入風景のビデオデータを収集した。これを申請者が探索的に作成した評価ツールを元に分析を行い,自閉症児が他者を道具的,情緒的に求めるようになるプロセスを示した。またその中で言語発達,認知発達,遊びの質の変化が関連して見られ,セラピストとの関係発達とその中での個体発達が量的なデータとして示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
母子へのインタビューや観察方法による関係障碍の把握研究そのものは,近年の母子アセスメント技法の多様化,専門性の向上,ラインセンスの必要性など,種々の理由からこの1年間の間では実施することができず,講習を受けることでその専門的な理論背景の検討やライセンス取得をすることが中心となった。他方で,成人期の障碍者と入所施設職員の関係障碍,診断がまだつかない「気になる子」と呼ばれる幼児と保育士の関係障碍など,より広範囲な領域での調査結果が得られ,それらに対して対象者の年齢や場所等の特性に応じた介入法の検討,介入の評価研究ができ,3年間の研究予定の基盤がより精巧かつ広がりのあるものになったと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
まず得られた隣接領域での結果や評価法を論文化することを第一の課題と考えている。同時に一連の知見を,前言語期の自閉症児と母親のインタビューや観察法へと組み込み,関係障碍の把握研究を実施することを最大の目的とする。ただし,近年のアセスメント法のライセンスや研究ツールの独占状態などを加味すると,一部は共同研究という形で特定の評価法の使用許可を得る必要があり,一部は個人の研究という形から修正を余儀なくされう。この点に関しては,現在,研究協力の承諾をそれぞれの関係者より得られており修正可能である。また,自閉症児及びその養育者,それぞれによって形成される関係性の多様性により,関係障碍の把握研究からだけでは介入法や評価法を包括的に理論化することは困難であり,今後は探索的に行う介入研究や評価研究の結果を,関係障碍の把握研究と相互補完的に取り込む形で,両研究を並行して行っていくことが必要であると考えている。
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Research Products
(10 results)