2012 Fiscal Year Annual Research Report
グラファイト/C60/グラファイト構造の低摩擦状態の解明
Project/Area Number |
12J00546
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
井上 大輔 電気通信大学, 大学院・情報理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 摩擦 / 原子間力顕微鏡 / 水晶マイクロバランス / グラファイト / フラーレン |
Research Abstract |
摩擦現象は我々の日々の生活にもっとも馴染み深い物理現象でありながら,そのメカニズムは未だに不明な点も多い.近年の計算機の発達や走査型プローブ顕微鏡(SPM)を始めとする新しい実験法の開発により微視的なアプローチから摩擦のメカニズムの解明を目指すナノトライボロジー研究が発展している.このナノトライボロジー研究は,理学的興味のみならず工学的にも非常に重要である.ある試算によると摩擦で失われるエネルギーは国民総生産(GNP)の約3パーセント(11兆円)に上る.エネルギーを効率よく利用するためには,微視的な視点からの摩擦の理解とその制御が現在まさに求められており研究する意義がある.本研究は,原子間力顕微鏡(AFM)と水晶マイクロバランス(QCM)法を組み合わせた摩擦力顕微鏡を作成し,「低摩擦材料として知られるグラファイト/C60/グラファイト構造の低摩擦実現のメカニズムを実験的に解明すること」を最終目的としている.これまでのグラファイト(Gr)基板を用いた研究から,水晶振動子の振動振幅がGr基板のポテンシャル周期(0.25nm)よりも大きい場合は典型的な固体摩擦のような振る舞いを示すのに対して,ポテンシャル周期を下回ると急激に動摩擦力が小さくなることが明らかになっている.Gr基板と優位にポテンシャル周期の異なるフラーレン(C60)基板(周期1nm)を用いて同様の実験を行い,確かにポテンシャル周期近傍で摩擦力が急激に立ち下がるということを確認した.この振る舞いは1次元Tomlinsonモデルで定性的に理解することができ,ポテンシャル障壁を越える運動については障壁を越える際の加速により大きなエネルギー散逸が発生する.その一方でポテンシャル障壁を越えない運動についてはポテンシャルの極小点付近の振動によるエネルギー散逸しか起きないため小さな値となるというように解釈でき,典型的な固体摩擦を発現するのはポテンシャル障壁を越えたときだけであるということが分かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では前年度までに作成した自己検出型原子間力顕微鏡-水晶マイクロバランス装置を使用し,水晶振動子上にグラファイト/C60/グラファイト構造を作成し,荷重や滑り距離を変えつつ動摩擦測定を行う予定であった.しかしながら,従来の装置では(1)低摩擦を示す荷重領域の測定が困難であること,(2)基板表面の粗さやポテンシャル構造の情報が得られないなど,実験上の問題があった.そのため,今年度は装置の改修を行い上記の2つの問題を解決することとした.具体的には自己検出型から光てこ方式に変更したことで,微小荷重の測定と表面の凸凹像を取得が可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
装置の改良により測定上の大きな問題は取り除かれた.既にカンチレバーにグラファイトフレークを張り付ける技術と,C60単分子層膜を蒸着する方法は確立しているので,グラファイト基板を接着した水晶振動子を作成し荷重・滑り距離を変えながらの動摩擦測定に移る予定である.
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Research Products
(6 results)