2012 Fiscal Year Annual Research Report
状況的学習理論に基づく卒論作成過程の質的・量的検討
Project/Area Number |
12J00743
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
山田 嘉徳 関西大学, 心理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 状況的学習 / 卒業論文 / ゼミ / 高等教育 / 学びのトラジェクトリー / トライアンギュレーション / 卒論への態度スケール / 質的・量的検討 |
Research Abstract |
本研究のねらいは、卒論作成過程の内実とその成果を大学ゼミの文脈(状況)から捉え直し、継続的なフィールドワークによって長期にわたり収集されたデータを調査指標として活用しながら、卒論作成に伴う参与という活動がもたらす学習観を新たに再構築することである。本年度は、(1)質的調査、(2)質的分析、(3)方法論・理論の整備を進めた。(1)質的調査では、卒論作成の状況特性を質的に深く探る目的から、過去20年にわたり283名の卒業生を輩出し、卒論を中心的活動に据えて運営されてきた、大阪府下私立大学専門教育課程における人文・社会科学系教育・心理学分野の1つのゼミ(4年次生15名)を対象に、参与観察(計3回)、インタヴュー(一人平均60分)、質問紙調査(卒論への態度スケール(SAG25))を実施した。また、(2)質的分析では、卒論への学びの意味づけの変容という現象を、(1)学生同士の互助支援におけるディスコースの特徴、及び(2)学生同士による互助行為からメンバーシップが獲得される形態を明らかにした。これらの成果の一部は、学会誌への投稿及び学会発表を通して報告した。さらに、(3)方法論・理論の整備では、文献レビュー、海外での研究交流を通じ、状況的学習(SD理論に基づく卒論作成過程を質的・量的に把握するための方法論の整理を行った。具体的には、SL理論を中心に、複線径路・等至性モデル、対話的自己理論を取り入れた質的調査、高等教育における量的調査の方法論の類似点・異同を整理することを通じ、SL理論に基づく卒論を介した学習研究の特色を考察した。加えて、卒論作成に伴う参与という活動を基礎に据えた新たな学習論の生成に向けて、実践、学習、活動を巡る理論的議論を深め、その成果を踏まえ、国内外の学会での交流を通して、今後の大学教育に向けた示唆・提言を行うための基盤づくりを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は、当初の計画通り、(1)質的調査、(2)質的分析、(3)方法論・理論の整備を同時並行で進めることができた。とりわけ、本研究の目的にあたる新たな学習観の生成という課題に関しては、(3)方法論・理論の検討が重要となるが、その土台として、SL理論と関わりの深い著書"Dialogical Self Theory"における第3章(p.120-199)の翻訳を、著者本人(オランダナイメーヘン大学名誉教授ハーマンス博士)と直接交流しつつ実施できた。結果として、新たな学習観の生成に向けた理論整備が大幅に進み、当初の計画以上の進展がみられた結果となった。
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Strategy for Future Research Activity |
方法論・理論の整備に関する今年度の研究成果を踏まえ、異なる大学での複数のゼミを対象に効果検討を実施する。加えて、専門教育課程に位置づけられる文脈(状況)を一部共有する複数のフィールドを対象とした調査デザインの基での詳細な質的・量的検討を行う。また、今年度パイロット・スタディとして実施した質問紙調査の結果を踏まえ、今後は、回想法を取り入れた学びの意味づけの過程を質的・量的に捉える分析を実施する。また、これらの成果について、今年度報告した英文論文の成果を踏まえ、新たな学習論の生成を巡る研究課題を中心に取り上げる、海外の学術雑誌『lnternational Jounal for Dialogical Science』(査読付き)への論文投稿を通して、研究報告を行う。
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