Research Abstract |
協力ゲーム理論に基づく国家間排出権取引の新しいモデル(CETゲーム)を構築した. CETゲームは, 特性関数型ゲーム(von Neumann & Morgenstern 1944)の応用であり, プレイヤー同士の協力関係を「提携」という形で表現する. CETゲームにおいて, 排出権の価格は買い手と売り手の交渉を通じて決められる. 排出権の価格は, 個人合理性と社会合理性を同時に満たす, すなわち, 買い手と売り手の双方にとって望ましいものであると仮定する. CETゲームの枠組みは, 現実の国家間排出権取引のプロセスを反映しており, 利己的なプレイヤーを想定するこれまでのモデルと大きく異なっている. このような枠組みのもと, 各プレイヤーのシャプレー値(Shapley 1953)を計算し, 買い手と売り手がもつ交渉力を定量的に評価した. その結果, 買い手が常に売り手と同等かそれを上回る交渉力をもち, 排出権の価格を抑制できることが分かった. これは, 買い手市場に陥っている排出権市場の現状をうまく説明している. 不完全競争下における排出権取引は, Hahn (1984)以降, 盛んに研究されてきたが(e.g. Maeda 2003), 買い手による市場の支配を直接的に示したモデルは他に見当たらない. さらに, プレイヤーの交渉力を詳細に分析したところ, (1)京都議定書が買い手の市場からの撤退を認めていること, (2)経済移行国から供給される大量の排出権(ホットエア), (3)世界金融危機に伴う排出権需要の縮小, という3つの要因が買い手の交渉力を高めていることが分かった. 京都議定書が抱える構造的な問題が排出権市場の失敗につながったと考えられる. 排出権の価格を引き上げるには, 買い手の交渉力を抑制する必要があるが, これは「基準年のシフト」や「売り手の一元化」により達成できる可能性がある. このように, 本研究の結果は, ポスト京都議定書の制度設計に向けてさまざまな示唆を与えるものとなっている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国家間排出権取引を協力ゲーム理論の枠組みで表現することに成功した. モデルから導かれる結果は, 買い手市場に陥っている排出権市場の現状をうまく説明しており, 妥当なものであると考えられる. 2013年度の成果については, 論文にまとめて国際誌PLOS ONEへ投稿する予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
2014年度の目標は, 国家間排出権取引のダイナミクスを明らかにすることである. 取引を何度も繰り返したときに, 排出権の価格や買い手の支払意思額がどのように変化するかを, コンピュータ・シミュレーションで分析する. 個々の取引は, 2013年度に構築した協力ゲームで記述できる. 取引結果はプレイヤーの意思決定にフィードバックされ, 次回の取引に影響を及ぼす. モデリングに際しては進化ゲーム理論, 特に, 強化学習ダイナミクスが有効であると思われる.
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