2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J01177
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
田中 秀治 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 焦点句移動 / 分裂CP仮説 / 焦点基準の妥当性 |
Research Abstract |
平成24年度の研究の目的は、焦点の決定システムを明らかにするための判断材料を集めることを前提にして「焦点を提示する焦点句(日本語の「太郎しか」/英語の「only Taro」等)のデータ・特徴を整理すること」であった。本年度は日本語焦点句に着目し、追加「も」/対照「は」/否定呼応「しか」の焦点句を集中的に分析した。本研究で明らかにした焦点句の特徴の中で特に強調すべきものは、1.で述べているもので、「太郎が花子にしか会わなかった」から「花子にしか太郎が会わなかった」のように、「焦点句が文先頭に移動する場合、その移動はどのような性質を示すのか」という観点に関わるものである。 1、日本語の焦点句移動の特徴 (1)焦点句移動は再構築効果を示しうる(つまり、移動した焦点句は移動前の元位置で解釈されうる)。 (2)焦点句移動は文法性を変えないという点で随意的である(つまり、焦点句を含む文はその移動がなくても文法的である)。 焦点句移動が再構築効果と随意性によって特徴付けできることを示したことは重要な成果として考えられる。まず、本研究の分野においては分裂CP仮説という理論が広く受け入れられているが、それは「焦点句が文の先頭部に移動しその移動先で解釈される場合のみ、その文は文法的となる」という旨の「焦点基準」を提案している。しかし、本研究の成果は、2.で述べているように、日本語の焦点句移動がその原理に従わないことを示している点で重要である。 2、研究成果の重要な点 日本語の焦点句移動が再構築効果を持ち、かつ、随意的であることから、「焦点基準」が普遍的な原理ではないことを示している点 以上のような形で、分裂CP仮説が登場して以来、ある要素を直観的に焦点句と捉え焦点基準を恣意的に適用する分析が見られる現在において、本年度の研究成果は、焦点基準に代わるような焦点の決定システムの必要性を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究は、焦点句の言語事実を発掘・整理し直すことを目的にしていた。その達成度は、次の2点から高いと考えられる。1つ目は、これまで議論されてこなかった日本語焦点句の統語論を分析し、その全体像を解明するに十分な言語事実を提供している点である。2つ目は、その分析の帰結として、現在広く受け入れられている分裂CP仮説という理論に対して妥当な批判を出しているため、焦点研究の活発化を促すことを期待させる点である。しかし、本年度は日本語の分析が主であったため、それが英語を含めた様々な言語に適用可能か等の課題は残っている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の研究成果から2つの課題が浮上している。1つ目は、日本語焦点句の分析が英語を含めた様々な言語に適用可能か検討することである。2つ目は、音声的強勢で焦点を提示する焦点の決定システムは「しか」等の焦点句を用いたシステムとは異なるものと考えられるが、前者の全貌を明らかにするための判断材料を収集することである。これらの課題を踏まえ、今後は、日本語だけではなく英語などの焦点句に関する言語事実、及び、音声的強勢に基づく焦点の決定システムの解明につながる言語事実を文献やインフォーマント調査から発掘・整理し直しながら、本研究課題の遂行を試みる。
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Research Products
(3 results)