2012 Fiscal Year Annual Research Report
近世絵画における宗教表現の研究 - 「地獄極楽めぐり図」を中心に
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12J01304
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
曽田 めぐみ 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 河鍋暁斎 / 地獄極楽めぐり図 / 近世宗教美術 / 追善供養 / 時宗 / 五代目尾上菊五郎 / 法隆寺天保出開帳 / 御宝物図絵 |
Research Abstract |
本研究の目的は日本近世絵画に描かれた「いのりのかたち」に焦点を絞り、江戸時代の庶民信仰の様相を美術史の視点から明らかにするものである。本研究課題の主軸をなす河鍋暁斎筆「地獄極楽めぐり図」(静嘉堂文庫美術館蔵)は、暁斎の有力なパトロンであった勝田五兵衛の娘、田鶴が天折した際に追善供養のため制作された作品である。 第65回美術史学会全国大会(2012年5月18日於國學院大學)では、「河鍋暁斎筆『地獄極楽めぐり図』に見る転換期の追善供養一法隆寺天保出開帳、極楽行き列車、そして五代目尾上菊五郎-」と題し研究発表を行った。本発表では、天保法隆寺出開帳に出陳された古代宝物、'明治期を代表する歌舞伎役者・五代目尾上菊五郎、そして文明開化の象徴である列車といった、幕末明治という時代の転換期にしか生まれえなかったモチーフが田鶴追善と深く関わっていることを新たに指摘した。 『待兼山論叢』美学篇(大阪大学文学会、2012年12月刊)においては、「河鍋暁斎筆『地獄極楽めぐり図』と勝田家菩提寺」と題した論文を発表した。本論での検証により、本作の施主である勝田家菩提寺は東京都台東区西浅草に位置する日輪寺(時宗)であることが判明し、本作第5・6図に描かれた境内は明治初年当時の日輪寺を忠実に表していることも併せて明らかとなった。さらに、「六十万人決定往生」と記された門柱、阿弥陀如来の「賦算」、「遣迎二尊」といった時宗の教義に基づいたモチーフが本作に描かれていることも指摘した。また過去帳の記録から、本作第37図に描かれる人力車中の幼子は明治五年六月末に亡くなった田鶴の従兄弟である可能性が高まり、その幼子らを田鶴が迎え出ていることで彼女自身の仏性が高まっているものと解釈した。 この様に、一人の少女を追善するために制作された作品を丹念に調べることで、江戸時代の追善供養の様相と祈りの在り方を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の研究目的および目標を、計画以上に達成できた。これまでの研究発表、および研究論文は常に高い評価を得ており、美術史学会誌『美術史』への投稿論文(2013年10月発刊予定)は特に評価が高く、査読意見では「新知見に満ちた新鮮な論文」、「出色の論文」、「今後の研究が大いに期待できる」と評された。中でも、河鍋暁斎筆「地獄極楽めぐり図」の注文主である勝田家の菩提寺を特定し、さらに過去帳の調査から新たな事実を指摘できたことは計画以上の成果であり、本研究を深めてゆく上で核となる要素となる。 「地獄極楽めぐり図」研究を続ける一方で、歌川国芳筆「源頼光公館土蜘作妖怪図」をテーマとした研究を進めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
国芳筆「源頼光公館土蜘作妖怪図」は従来、水野忠邦の天保改革を批判した判じ絵だと解釈されてきた。しかしながら、本作に描かれた妖怪の大多数が勝川春英による妖怪画の転用であることが本研究で明らかになってきており、加えて本作には疱瘡除けの図像と死のイメージが対立するように描かれている可能性が浮上した。このことを論証し、江戸庶民の信仰の在り方を浮き彫りにしようと試みたい。本研究に関しては、平成25年度中に美術史学会例会で発表し、国際浮世絵学会誌『浮世絵芸術』への論文投稿を目指す。
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Research Products
(4 results)