2013 Fiscal Year Annual Research Report
近世絵画における宗教表現の研究 - 「地獄極楽めぐり図」を中心に
Project/Area Number |
12J01304
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
曽田 めぐみ 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 河鍋暁斎 / 歌川国芳 / 地獄極楽めぐり図 / 源頼光公館土蜘作妖怪図 / 追善供養 / 摩耶夫人 / 疱瘡絵 / 庶民信仰 |
Research Abstract |
本研究の目的は日本近世絵画に描かれた「いのりのかたち」に焦点を絞り。江戸時代庶民信仰の様相を美術史の視点から明らかにするものである。 本研究課題の主軸をなす河鍋暁斎筆「地獄極楽めぐり図」(静嘉堂文庫美術館蔵)は、暁斎の有力なパトロンであった勝田五兵衛の娘、田鶴が夭折した際に追善供養のため制作された作品である。本作に描かれた同時代のモチーフが、田鶴という娘を追善するイメージとどう結びついているのかを考察した論文「河鍋暁斎筆『地獄極楽めぐり図』再考―幕末明治の表象と追善供養のかたち―」を美術史学会誌『美術史』(第175号、美術史学会、2013年10月、査読有)に投稿し採択された。 また、第34回暁斎研究会「河鍋暁斎筆「地獄極楽めぐり図」について(三)―「奏の河原」に描かれた赤い欄干に注目して」(口頭発表、2014年2月23日、於河鍋暁斎記念美術館)においては、本図に描かれた欄干の構図や石積みをする子供達の図像は、洪武二十八年版『出相観音経』の「現童男童女身」を典拠にしていることを指摘した。このことから、寳の河原の子供達の石積みは「回向の塔」であると同時に「仏塔」でもあると解釈でき、「地獄極楽めぐり図」における宗教表現の解明の足がかりを築くことができたと考えている。 美術史学会西支部例会「歌川国芳筆『源頼光公舘土蜘作妖怪図』再考―妖怪の図像源泉と五雲亭貞秀作品との関わりをめぐって一」(口頭発表、2013年9月21日、於大阪市立東洋陶磁美術館、査読有)では、これまで天保の改革を風刺した錦絵としてしか扱われてこなかった歌川国芳「源頼光公舘土蜘作妖怪図」について新たな解釈を試みた。その研究の過程において疱瘡除けの図像と死のイメージが対立するように描かれていることを論証し、「病を退けたい」という江戸庶民の願いや祈りの表象が「金太郎」や張り子の木兎・達磨といった「疱瘡除け玩具」に託されてることを再確認し、近世の庶民信仰の諸相の一片を具体的に提示できたと思う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の研究目的および目標を、計画以上に達成できた。 なかでも、河鍋暁斎筆「地獄極楽めぐり図」の主人公である田鶴に摩耶夫人のイメージが投影されているという可能性を新たに提示でき、当初の計画以上のことを進めることができた。江戸時代における「摩耶夫人信仰」の諸相という新たなテーマを獲得でき、これは今後研究を続けていく上での大きなテーマとしていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の研究では、歌川国芳筆「源頼光公館土蜘作妖怪図」に重点を置きながら、「疱瘡除け」をはじめとする江戸時代の庶民信仰の在り方を考察してきた。 平成26年度は、本研究の主軸ともなる作品、河鍋暁斎筆「地獄極楽めぐり図」に再び立ち返る予定である。中でも、本作の主人公である田鶴が摩耶夫人に見立てられている可能性を立証するとともに、江戸時代における摩耶夫人信仰のありかたを模索する。加えて、河鍋暁斎が手本とした仏画を具体的に明示することで、「近世宗教表現」という本研究のテーマをより立体的なかたちで発表していきたい。
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Research Products
(7 results)