Research Abstract |
本研究の目的は, 古インド・アーリヤ語最古の文献であるリグヴェーダ(紀元前1200年頃に編纂されたものと考えられる)において, 河川が如何なる存在に位置づけられるのかを, 文献学的手法を用いて明らかにすることである。半遊牧・移動生活を営んでいた頃の記憶を未だ留める段階にあったインド・アーリヤ人が伝えた宗教文献中で, 河川という生活上の重要拠点を巡って言及される「生活実態, 社会背景」, 「思想, 世界観」そして「宗教観」について, 総合的な解明を試みる。以下に, 本年度に行った研究(継続中のものを除く)について, 特筆すべき三点の概略を記す。 1. ラサー リグヴェーダ及びそれに後続するヴェーダ文献に登場する, 神話上の河川としての特徴が色濃く伝えられるラサーについて, その全用例を対象とし, 文献学的に調査した。本研究の成果については, 待兼山論叢第47号哲学編に論文(英文)を投稿した。 2. 神々の妻達 本研究は, リグヴェーダの一節において, 河川の女神であるサラスヴァティーと共に登場し, 「神々の妻達」として位置付けられる女神達の分析からスタートした。そのような神群を, 特徴に応じて二種のグループに大別し, リグヴェーダにおける用例の分析を中心に据えつつ, さらに後続するヴェーダ文献が伝える祭式の文脈における役割にも目を向けながら精査し, 一連のヴェーダ文献における女神/女性観の一端の解明を試みた。本研究の成果については, 国際学会6th International Vedic Workshopにて発表を行い, 論文を投稿した(主催者側の発表によると, 学会紀要は平成26年内に出版予定とのこと)。 3. ガッガル川現地調査 平成26年1月に, インドのハリヤーナー州シルサにあるガッガル川(サラスヴァティー川に比定されるものと考えられる)及びオットウ湖(ガッガル川の一部を堰き止めて作った人造湖)へと赴き, 現地調査を行った。文献研究のみからは窺い知ることの難しい, 現地の風土や気候, 人々の生活の様子等を見聞した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度までに行った, 特定の名を以て呼ばれる地上の河川の研究によって得られた知見を土台に, 今年度はラサーという, 神話的河川としてのイメージが色濃く伝えられる河川の研究を遂行した。 一般的に女性名詞として語られる河川の研究を起点とし, それと関連づけて伝承される, ヴェーダ文献における女神・女性観の調査へと進んだ。当初の段階では想定していなかった, 新たな研究の方向性を見出した。 リグヴェーダ中に, 河川としては最も多くの用例が伝えられ, 多面的な特徴を有するスィンドゥについて, H. GRASSMANN Wörterbuch zum Rigveda (1872-1885)を参照し, 用例箇所, 語形, 語義(性を含む)に基づいてソート可能なExcelファイルを作成し, それを参照しながら個々の用例の分析を行った(継続中)。
|
Strategy for Future Research Activity |
昨年度から引き続き, スィンドゥの研究を中心に行う。同語は河川としては例外的に, 女性形のみならず, 男性形でも語られる。現在はその性差による語義の違いについて, ナディー「水流, 河川」, アープ/アプ「水(この語を以て河川を謂う場合もある)」(共に女性形)といった類義語が, 近似した文脈に現れる用例をも並行的に分析しながら, 個々の用例を精査している。今後さらに, 河川に関わる他の語との比較研究をも行いつつ, 最終的に同語の全体像の解明を目指す。なお研究成果の一部は, 本年8月30,31両日に武蔵野大学有明キャンパスにて開催される第65回日本印度学仏教学会学術大会にて発表予定である。 また, サムゥドラ「海(『水の集まり』が原義)」についても研究を進める。当語にも大量の用例が伝えられるが, 概念的にスィンドゥと類義的に用いられる用例も複数確認されるため, 上述の研究とも部分的に並行して行う。
|