2012 Fiscal Year Annual Research Report
オーストラリア家族と「いのち」の社会史--生殖技術と家族計画の視点から
Project/Area Number |
12J01368
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
藤田 智子 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | オーストラリア家族 / 生殖管理 / 不妊治療 / 家族計画 / 家族政策 / セクシュアリティ / ジェンダー |
Research Abstract |
今年度は、1930年代から1960年代までを対象とし、オーストラリアにおける「不妊」の病理化、さらには「生殖」をめぐる政治全体と家族計画に伴う近代家族の形成と拡大について研究することを目指した。数度の渡豪を通し、シドニーのニュー・サウス・ウェールズ州立図書館やメルボルンのメルボルン大学などにて資料調査を行うのみならず、International Australian Studies Association(InASA)のカンファレンスにて報告も行った。 より具体的には、まず1、先行研究のさらなる検討を通し、本研究の理論的枠組みを確定することを目指した。 次に、2、医療雑誌・新聞記事・政府文書等の資料収集と分析を通し、対象期間中に起こった生殖技術の発展や、その技術をめぐる議論やその背景などについて、包括的に分析した。さらに、3、具体的な事例として、オーストラリアにおける不妊治療クリニックの展開や、民族衛生や優生学の思想に基づいた団体等によるバースコントロールをめぐる議論を取り上げ、研究した。そして、これらの分析を総合し、1930年代から1960年代における「生殖」をめぐる政治全体を研究した。 オーストラリアにおいては、20世紀前半、出産が徐々に医療化し、民族衛生や優生学の思想に基づいた団体を中心に、バースコントロールをめぐる議論が展開される一方で、第二次世界大戦中には、「不妊」が初めてナショナルな問題として認識され、各州都に不妊治療クリニックが設置された。このような、相反する目的に基づく生殖への介入のいずれにおいても、人種・階層・健康等のうえで、より「良質」な国民からなる国家の建設という視点があったことが確認できた。 成果発表については、上述のように、オーストラリアにおける政策と家族の福祉という視点から、InASAで報告を行ったほか、国際シンポジウムでも報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は、基本的には当初の計画に沿って研究を進めたが、現地調査を通し、来年度以降に取り組む予定であった、1970年代以降の資料も多く収集することができた。また、現地調査を通して、医療関係者を中心とするネットワークづくりも積極的に行い、当初は来年度に行う予定であった聞き取り調査も開始することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、現地における資料調査と聞き取り調査およびそれらの分析を進め、積極的に成果報告を行っていく予定である。平成25年度は、1970年代以降1990年代前半までに起こった、生殖補助技術の飛躍的発展とその規制に関する研究を行う。現地にて、1970年代以降の生殖補助医療発展に大きく関わってきたクリニックの訪問と医療関係者等への聞き取りを継続しつつ、生殖補助医療の法規制に関わる政府文書や新聞記事などの資料収集も行う。一方日本においては、インターネット等で閲覧可能な資料の収集と収集した資料の分析を行い、その成果を学会にて報告し、さらに学会誌への投稿を目指す。最終年度は、1990年代後半以降に焦点を移し、生殖補助医療をめぐる新たな動きとそれをめぐる議論を分析したうえで、それまでの議論を総合し、家族と生殖の歴史としてまとめる予定である。
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Research Products
(3 results)