2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J01410
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
永田 真己 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | スピントロニクス |
Research Abstract |
本研究の主たる目的は、局在スピンと伝導電子の相互作用について、基礎物理の観点から明らかにすることとともに、その相互作用を起源とする現象を工学的なデバイスへと応用していくことである。その舞台として研究代表者は、まずf電子系材料において期待される巨大なスピンホール効果(SHE)に注目し、実験を行ってきた。本年度は、f電子系材料の微細加工に取り組み、測定を行ったが、その素子化の困難さのために、局在スピンと伝導電子の相互作用について、新しい情報を得ることは困難であった。そこで、より目的に則したテーマとして、フェリ磁性体におけるスピン起電力についての研究を進めた。スピン起電力(SMF)は、SHEと起源は共通しており、局在スピンと伝導電子の相互作用により発生する起電力である。研究では、フェリ磁性体としてマグネタイトを選択した。マグネタイトは、容易な加工性とフェリ磁性的な性質から、巨大なSMFを発生する候補物質と考えられる。研究代表者は、マグネタイトの微細加工と磁気共鳴観測に成功した。研究代表者が開発した素子構造は共鳴時に発生するSMFを直接観測可能な構造になっており、このような素子構造において、磁気共鳴観測に成功した例はいまだない。次に、マグネタイトの磁気共鳴時に発生するSMFの観測に取り組み、素子基板に対し面内に磁場を印加した場合は既存の理論では説明できない電圧の寄与があることを発見した。この電圧は、細線の端部分にて発生した非一様な磁気共鳴に由来するSMFである可能性がある。スピントロニクスにおいて、フェリ磁性体などの新規な物質を研究の舞台とした報告はいまだ世界的に限られたものであるために、これがSMFであることが証明されれば、同分野における研究対象を大きく広げる結果になる。研究代表者は、SMFの寄与のみを取り出せるような素子を開発し、実験を次の段階へ推し進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の主たる目的は、局在スピンと伝導電子の相互作用について、基礎物理の観点から明らかにし、その知見を工学的なデバイス応用へとつなげていくことである。今年度は、フェリ磁性体におけるスピン起電力の観測実験にとりくみ、すでにマグネタイトの磁気共鳴観察に成功ている。さらに、スピン起電力測定に最適なデバイス構造を開発、測定を行い、スピン起電力の可能性のあるシグナルを観測することに成功している。この実験結果は、スピントロニクス分野における研究対象を大きく広げる可能性を持つとともに、基礎物理的に非常に有益な知見を与えうる。したがって、本年度の研究目的を、当初の計画以上に進展させることに成功したといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の方針は、以下である。まず、第一段階として、既存の素子をさらに改良し、マグネタイトにおいてスピン起電力の観測に成功していることを明らかにする。この研究が成功すれば、世界的に初めてフェリ磁性体におけるスピン起電力を観測したことになる。第二の段階として・人工反強磁性体において、スピン起電力の観測実験をおこなう。反強磁性体において、スピン起電力を観測した例はなく、さらにスピントロニクス分野において、反強磁性体を積極的に用いた実験は少ない。まず、人工反強磁性体の作成プロセスを確立し、その後、微細化のプロセス、測定系の立ち上げを行う。人工反強磁性体の積層数を変えることにより、局在スピンが伝導電子にどのような影響を与えているのかを詳細に明らかにすることができると期待している。
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Research Products
(2 results)