2012 Fiscal Year Annual Research Report
オオバギ属植物(トウダイグサ科)と花序で繁殖するアザミウマの送粉共生とその進化
Project/Area Number |
12J01464
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山崎 絵理 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 送粉 / アリ植物 / トウダイグサ科 / オオバギ属 / アザミウマ |
Research Abstract |
1、送粉共生の進化に被食防衛共生は影響したか? オオバギ属は約300種を含むグループだが、ほとんどの種が葉に円盤状の花外蜜腺をもち、アリに被食防衛の一部または大部分を頼っている。そのうち約50種は、葉だけでなく花序の苞にも葉とよく似た蜜腺をもつ。苞に円盤状の蜜腺を持つMacaranga sinensisで訪花昆虫採集を行ったところ、この蜜腺を舐める昆虫が送粉を担うことが分かった。葉の円盤状蜜腺はオオバギ属のほとんどの種で見ら・れるのに対し、苞の円盤状蜜腺は原始的なグループでは全く見られないことから、苞の蜜腺は葉の蜜腺より後に起源したと考えられる。オオバギ属では、アリとの被食防衛共生をもっていたことでこのような送粉共生を獲得することが可能になったのだろう。 2、被食防衛共生の進化に送粉共生は影響したか? 被食防衛共生では、アリが植食性昆虫だけでなく、植物にとって有益な送粉昆虫まで追い払うかもしれないという負の側面が存在する。オオバギ属の中には、アリに食物だけでなく営巣場所も提供する「アリ植物」と呼ばれる種が存在するが、このようなアリと密接な関係にある種は、日和見的にアリを誘引する種に比べて、アリから受ける負の効果が大きいと考えられる。オオバギ属に見られるアリ植物種は、多くがDolichothrips属に含まれる体長2ミリほどのアザミウマという小さな昆虫に送粉される。同科の昆虫の多くは肛門から天敵忌避物質を分泌することが知られているため、オオバギ属の送粉者アザミウマがアリ忌避物質を分泌する可能性を検証した。アリの行動実験や、アザミウマの肛門分泌物の成分分析から、送粉者アザミウマはアリ忌避効果のある化学物質を肛門から分泌し、アリからの攻撃を避けていることが明らかになった。オオバギ属では、このようなアリによる攻撃を受けにくい昆虫を送粉者としたことで、アリとの密接な共生関係を進化させることができたと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は(1)オオバギ属の花序形態はどのように進化したか、(2)オオバギ属の送粉者アザミウマは、寄主植物を防衛するアリに対して忌避物質を分泌するかという2点を明らかにすることを計画していた。(1)については、約300点の乾燥標本の観察を行った結果、花序形態から風媒と思われる花序形態から昆虫媒と思われる花序形態への進化が起こったことが考えられた。(2)についてはアザミウマの分泌物の化学分析やアリを使った生物検定などを行い、アザミウマがアリ忌避物質を分泌することを明らかにした。以上より、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は以下の2点に取り組む。 (1)原始的グループの送粉様式の解明 花序形態から、オオバギ属の原始的なグループは風によって送粉されていたことが予想されるが、実際には全く調べられていない。そのため、ニューカレドニアに分布する原始的なオオバギ属複数種で訪花昆虫採集や、訪花昆虫除去実験を行い、風媒がみられるかどうか確かめる。 (2)送粉者アザミウマのアリ忌避物質に関する論文執筆・投稿 前年度の調査から、オオバギ属の送粉者であるアザミウマがアリ忌避物質を分泌し、アリからの攻撃を避けていることが明らかになった。本年度はこの成果を論文にまとめ、国際誌に投稿する。
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Research Products
(6 results)