2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J01479
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
谷口 晴香 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 採食行動 / 霊長類 / 地域間比較 / 伴食関係 / 母子関係 / 離乳期 |
Research Abstract |
本研究では落葉樹林帯に属し冬季に積雪がある青森県下北半島(以下、下北)と照葉樹林帯に属す鹿児島県屋久島低地(以下、屋久島)に生息するニホンザルを比較し、環境に呼応した離乳の様式が存在するかを明らかにすることを目的とした。本年度は、(1)~(3)を実施した。(1)下北と屋久島において夏季に個体数調査を実施し、出生率についての基礎データを収集した。(2)冬季に下北においてニホンザルの食物の硬度計測を行った。そして、下北のデータに関して、食物の物理的性質(かたさ、大きさ、操作数、高さ)が母子の食物利用の差に与える影響を、一般化線形モデルにより総合的に分析した。その結果、母親と比較しアカンボウは、操作を伴わない食物、低い位置にある食物そしてやわらかい食物に採食時間を費やしていた。身体能力が未熟なアカンボウは、利用しやすい食物に採食時間を費やす傾向にあった。このようなアカンボウの食物選択は、採食に費やすエネルギーの節約のみならず、高木からの落下の危険の回避にもつながると考えられる。今後、サルにとっての"離乳食"を考える上で貴重な資料になる。この結果の一部は、日本哺乳類学会2012年度大会において発表を行った。(3)アカンボウの伴食相手の分析を、下北と屋久島の冬季に収集したデータを用い行った。その結果、伴食相手に地域間で差がみられ、アカンボウが採食する際に、母親の2m以内に近接する割合は、屋久島の方が低く、他のアカンボウと近接する割合は屋久島の方が高い傾向にあった。下北と比較し、屋久島のような冬でも暖かく、果実や葉が利用できる豊かな環境では、母親への依存が弱められ、アカンボウは、伴食相手として母親より食物利用が類似している他のアカンボウを選択したと考えられる。生息環境によりアカンボウの伴食相手は変化し、地域間で離乳過程が異なっていることが示唆された。この結果は、第24回国際霊長類学会において発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概ね計画書に記載された予定通りに課題を遂行した。ニホンザルの母親と離乳期のアカンボウの間の食物利用の違いが、食物の物理的性質、特に定量的に計測できたかたさと関連していることを明らかにできた点は、サルにとっての"離乳食"を知り、ヒトとの連続性を考える上で、今後貴重な資料になると考えられる。また、生息環境の影響によってアカンボウの伴食相手が変化することを示したことで、群れ生活する霊長類における環境への社会的適応という新しい視点を提示できた。また、以上の結果を、国際学会にて発表し、外国人研究者と意見交換を行うこともできた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、以下(1)~(3)を行う予定である。(1)下北と屋久島において個体数調査を継続して行い、アカンボウの出生率と死亡率についての基礎データ蓄積に努める。(2)食物の物理的性質と、母子の食物利用の差の関係に関して、屋久島についても下北と同様の分析を行い、地域間比較することにより、アカンボウの食物選択に関して共通点と相違点を明らかにし、ニホンザルの"離乳食"について考える。(3)母子が分離する状況について詳細に分析を行うことで、両地域のアカンボウの母離れを促進する要因にういて地域ごとに検討をする。そして、これらの結果を統合し、両地域における主に食物を介した社会関係の構築と離乳様式について考察を行う予定である。
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