Research Abstract |
脱フユージョンの技法とは,自らが生成した思考を世界に関する字義どおりの真実として捉えるのではなく,思考はただの思考に過ぎないという見方の体験的理解を目指すものであり,不安障害などの精神疾患に対する従来の心理療法的技法の効果を増幅することが期待されている。近年,臨床場面において,脱フユージョンの技法に対する関心が高まりつつあるという一方で,その効果を支持する実証的研究はほとんど実施されていない。心理学の専門性は,科学的なデータにもとづいて議論することにあり,欧米の臨床心理学の領域でも,1990年代後半から,実証にもとづくアプローチをするべきだという考えが叫ばれ,近年ではエビデンス的側面が重視されるようになってきた。そこで,本年度実施した研究では,脱フユージョンの作用メカニズムについて実験的手法を用いて検討し,脱フユージョンの促進要因が明らかにすることで,エビデンスにもとづく新たな治療技法の提案を行った。さらに,これまで,脱フユージョンの技法の効果測定法が確立されていなかったため,先行研究において治療効果に関する知見が一貫していないという問題があった。そこで,本年度実施した研究では,脱フユージョンの治療効果を適切に測定するための効果測定法の開発を行った。具体的には,治療効果を測定する実験課題をプログラミングし,大学生を実験参加者として,効果指標としての妥当性の予備的検討を行った。一連の研究結果から,脱フユージョンの技法の臨床的有用性についてのエビデンスが示され,従来の心理療法的技法の改善に関する示唆を得られたことから,学術的意義も大きい研究である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度計画されていた実験をすべて実施し,その研究成果について,国内の学術雑誌に第一著者として3編の論文を発表した。国際会議では,第一発表者として,口頭発表およびポスター形式による発表を行った。研究の進捗状況およびその成果の公表という観点から考え,予定どおり順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
1年度目の研究成果をふまえ,次年度は,脱フユージョンの作用メカニズムの記述が可能な実験課題を改良し,脱フユージョンの獲得プロセスの記述および促進要因のさらなる検討を行う予定である。また,同様に,脱フユージョンの治療効果を測定する実験課題についても,改良を行い,さらなる妥当性の検討を進める予定である。さまざまな臨床現場で汎用性の高い方法論を開発するため,iPad等の最新技術を用いたアセスメントツールを開発することが望まれる。今後は,より実践的な観点から研究を発展させていくことが必要である。
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