2012 Fiscal Year Annual Research Report
冷戦終結・ソ連解体後の地域・国際政治におけるチェチェン紛争
Project/Area Number |
12J01594
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
富樫 耕介 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
|
Keywords | 紛争研究 / 「未(非)承認国家」 / 旧ソ連の民族問題 / 紛争再発 / チェチェン / コーカサス / マスハドフ政権 / ロシア |
Research Abstract |
本研究は、冷戦後の地域・国際関係において主要な課題となっている国家の解体と紛争の発生についてチェチェン紛争を事例とし、どのようなメカニズムでこれが発生するのか、特に紛争の再発や平和構築の課題を意識しつつ明らかにする事を目的とした。 本年度は、この研究課題に対して三つの観点から取組んだ。第一に、比較の観点からチェチェン紛争を含むコーカサスの紛争の構図や全体像を提示する事を試みた。ここでは、主にイングーシ・北オセティア紛争、南オセティア紛争、ナゴルノ・カラバフ紛争、アブハジア紛争、チェチェン紛争の起源・経緯・結果をまとめ、これらを比較するという作業に取組んだ。本年度早々(5月頃)にブックレットとして研究成果を出版する事が出来た。 第二に、チェチェン紛争それ自体を多様な学問的観点から再考するという試みを、内外の研究者の協力を仰ぎつつ行った。これは具体的には、ハンガリーのカレル大学のスレイマノブ准教授、韓国・漢陽大学の玄教授、群馬大学の野田准教授にご協力頂きつつ、チェチェン紛争を過去から現代まで、そして歴史や文化から政治、宗教まで、さらには地域的観点や比較の観点から再考するという研究に取組み、その成果をユーラシア研究所の刊行する『ロシア・ユーラシアの経済と社会』において筆者が編集責任者として取りまとめ、チェチェン特集号として出版する事ができた。 第三に、1997-99年のチェチェンを多角的に問い直し、なぜ紛争が再発したのかという問いに答えるという研究課題に取組んだ。元来、この研究課題はさほど取組まれておらず、しかも往々にして先行研究は一部の引き金要因を過大評価し、ここに焦点をあてがちだったが、本研究では紛争構造からその再発のメカニズムを提示し、「いつ/なぜ/どのように紛争回避が困難となる状況が形成されたのか」を明らかにした。またこれらを通してチェチェン紛争を理解する際に広く用いる事の出来る分析枠組みを提示する事にも試みた。これらの考察結果を博士論文として東京大学に提出し、博士の学位を得ることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、一冊の単著、一冊の特集論文をそれぞれ出版する事ができ、かつ博士学位論文を完成・提出した事から当初の計画以上に大きな進展をしたと評価できるだろう。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初、チェチェンとの比較分析の作業を次年度以降は、旧ユーゴ地域を中心として重点的に進めて行こうと考えていたが、コーカサスにおける紛争の比較作業を試みるうちに、旧ソ連という枠組みにおいてより深く研究・分析をし、旧ソ連における紛争の類型化に取組む必要性を強く感じた。これは、たとえば「なぜA地域では紛争が生じ、B地域では生じなかったのか」という紛争発生を分けた要因の考察はもとより、紛争が生じた地域における比較においても旧ソ連という地域的枠組みの有用性(ある種0)同質性を持つ地域内における事例の選定と考察の必要性)を感じたからである。特に旧ソ連地域には、本研究が重点的に分析して来たコーカサスに加えて、中央アジアでもいくつかの紛争が発生しており、また90年代には民族衝突もあったので、中央アジア地域への理解を深める事がかかせない。従って、次年度以降は中央アジアにおける紛争の研究も中心的な研究課題としたい。
|
Research Products
(4 results)