2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J01944
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
森井 良 早稲田大学, 文学研究科, 特別研究員DC1
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Keywords | アンドレ・ジッド / 経済学 |
Research Abstract |
当年度の報告者はフランスの作家アンドレ・ジッドにおける経済(学)の問題を、1890年代後期の作品群を主要なコーパスに据えながら読み解き、そこで作家が政治経済にまつわる同時代的文脈をどのように受容し、作品のうちに反映させていったかを検討した。前期は前年度に積み残した草稿の解読作業にあて、具体的には、パリ大学付属ジャック・ドゥーセ図書館に保管されている『背徳者』の草稿を閲覧した。この解読で得られたのは、世紀末のジッドが共和国の枠組みのなかでの個人主義と社会的連帯の両立を説きつつ、その両立の実現の手段として債務を介した連帯を提示していたという事実であり、この事実はジッドと同時代の連帯思想との連関を問題にした報告者の研究にとって非常に価値あるものであった。後期からは世紀末作品における経済性の動向がその後の作品に(特に『法王庁の抜け穴』、『贋金づくり』)どのように引き継がれ、展開してゆくかを問い、連帯主義運動や第三共和政の経済体制の変化(特に第一次大戦での金本位制の廃止)にも注視しながら、ジッドにおける経済(学)のテーマを総括する視点を求めた。この研究は『贋金づくり』において焦点化された貨幣の主題の起源を求める意味合いもあり、そこで得られる成果は、貨幣経済という内題のもと博士論文の第三部に組み込まれるべきものである。このような総括的かつ遡及的な作業を進めながらも、報告者はこれまでフランスで行ってきた資料調査とその分析作業を総決算して、博士論文の執筆をすでに開始している。当年度、報告者は以上の成果の一部を国内外において発表した。具体的には、早稲田大学文学研究科紀要に「ある共同体における連帯―ジッドの作中作「ティティルの物語」をめぐって」を投稿し、査読を通過した。また、5月にパリ国際大学都市日本館で行われた多分野研究会(CEM)で「アンドレ・ジッドとアソシアシオン」(仏語)を口頭発表し、その発表原稿を論文形式に直したものを『日本館多分野研究会ノートCahier Multiculturel de la Maison du Japon』に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
二年目の年次計画で挙げたタスクは完了し、三年目分のものにも着手することできた。ただ、読解作業や資料調査で得られた情報の整理とそこから派生した小テーマの検討も必要であるため、一点下げて②の区分で評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も年次計画に沿いつつ、アンドレ・ジッドと経済(学)の関連性について検討を進め、テクスト読解から導きだされたテーマを関連書籍や同時代の知を参照しながらさらに体系化し、分析を深めてゆく。特に研究の観点を社会経済(連帯、アソシアシオン)から貨幣経済へと移し、世紀末作品における貨幣の主題を『贋金づくり』との相応を考慮しながら扱ってゆくつもりである。また当年度から開始した博士論文の執筆作業を引き続き進めてゆきたい。
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Research Products
(3 results)