2012 Fiscal Year Annual Research Report
前期青銅器時代ヨルダン渓谷における多元的都市社会形成に関する考古学的研究
Project/Area Number |
12J02064
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
山藤 正敏 金沢大学, 歴史言語文化学系, 特別研究員(PD)
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Keywords | ヨルダン渓谷 / 環境的境界地域 / 前期青銅器時代 / 「都市化」 |
Research Abstract |
1ヨルダン南部ショウバック北地域を対象とした考古遺跡の分布調査を3度(夏季1回及び春季2回)実施した。踏査は全て徒歩により行われ、その行程と確認遺跡の座標情報がGPSにより記録された。結果として、2011年夏季に実施した際の確認・登録遺跡(16遺跡)と合わせて、総計182遺跡を確認・登録するに至った。上記の遺跡は全て、FileMakerとMicrosoftExcelにより作成したデータベースに登録・記録されている。このうち36遺跡において前期青銅器時代の痕跡を認めることができ、特に西側に位置する5遺跡(おそらく居住址)においては同時期の多くの土器片が採集された。当該地域においては、包括的な分布調査が従来行われてこなかったことから、上記の調査成果は当該地域とその周辺の文化史的・歴史的様相を知る上で重要なデータを提供することになるだろう。また、確認された前期青銅器時代遺跡についても同じく、従来の研究で暖昧なままにされてきたヨルダン南部における当該期の文化的変遷を知るための貴重な手がかりを提供することとなった。 2ヨルダン・イスラエルに所在する前期青銅器時代(前3600-前2000年)に属する遺跡のデータ収集を進め、そのうち東部・南部の自然環境的境界地域に所在する遺跡の分布状況並びに物質文化のあり方について比較分析を実施した。これについては、日本オリエント学会大会にて口頭発表を行っている。遺跡の継続的居住率の高低から、同じ環境的境界地域でも定住的様相を示す地域(ヨルダン南部カラク地域及びショウバック北地域)と遊牧的様相を示す地域(イスラエル南部北ネゲヴ地域)がはっきりと区別されることが判った。従来、定住・遊牧が明瞭に区別されて論じられてきたので、上記の地域における差異は当該時期の生活史、定住民と遊牧民との関係性を考える上で新たな知見をもたらすことになった。 3イスラエル側(西側)南部における前期青銅器時代II期土器の製作技術の観察を実施した。結果、ショウバック北地域との類似と北部との明確な差異を認めるに至った。従って、ヨルダン渓谷を挟んだ環境的境界地域間の関係性が明らかになり、「都市化」過程が北部とは異なる可能性が示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究計画で挙げた2項目(ショウバック北地域分布調査及びヨルダン・イスラエルの遺跡データ収集・分析)について十全に実施し、研究目的の達成のために具体的な進捗があった。また、イスラエルに資料調査のためとこうする機会を得たことから、物質文化からも環境的境界地域における前期青銅器文化の変遷と「都市化」の特性について考察することができる状態になりつつあると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、今後は以下の諸項目に集中して推進されることになるだろう。 1)ショウバック北地域及びジャフル盆地における考古学調査の継続実施 2)ショウバック北地域における分布調査成果の整理・分析作業(採集遺物図面作成も含む) 3)ショウバック北地域周辺、また、ヨルダン・イスラエル全域の前期青銅器時代遺跡のデータ収集・分析作業 4)イスラエル側(ヨルダン渓谷西側)の環境的境界地域における物質文化の変遷に関する研究(比較研究) 上記の諸項目を完遂することで、ヨルダン渓谷東西の環境的境界地域の文化的・歴史的特異性と、前期青鋼器時代の「都市化」に及ぼした影響が明確に見えてくるだろう。
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Research Products
(4 results)