2013 Fiscal Year Annual Research Report
前期青銅器時代ヨルダン渓谷における多元的都市社会形成に関する考古学的研究
Project/Area Number |
12J02064
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
山藤 正敏 金沢大学, 歴史言語文化学系, 特別研究員(PD)
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Keywords | ヨルダン渓谷・死海地溝帯 / 環境的境界地域 / 前期青銅器時代 / 「都市化」 |
Research Abstract |
1 ヨルダン南部ショウバック北地域において複数回実施されてきた考古遺跡の分布調査の補足調査及び採集遺物の図化作業を実施した(夏季1回及び春季1回)。補足調査では、不足していた情報を補うために、本調査において確認済みの諸遺跡を再訪した。これにとどまらず、前期青銅器時代の痕跡が比較的顕著な遺跡において自動追尾式トータル・ステーションによる等高線測量も併せて行い、報告書の刊行や将来の発掘調査に向けた基本情報を取得した。また、本年度だけで536点の遺物実測を終え、前期青銅器時代の遺物実測(約300点)を完了した。さらに、45遺跡において前期青銅器時代の痕跡が認められることが明らかとなり、同時代では特に、最初期(EB I期前半 : 前3700-3300年)及び後期(EB III後期 : 前2500-2300年)において調査地域が主に利用されていたことが判明した。この傾向は西方の銅生産拠点フェイナンで見られる傾向と類似しており、両地域の関係性が強く示唆された。上記一連の作業により、これまで包括的な踏査のなかった当該地域のデータは完成に近づき、ヨルダン南部の前期青銅器文化を動態的に捉えることが可能な段階に至った。 2 ショウバック北地域近傍の死海地溝帯付近の分布調査報告書から前期青銅器時代の遺跡データを抽出し、現在までに約460遺跡を入力した。死海地溝帯東方の高原縁辺では最初期の遺跡が最も顕著で、時期を追って激減するのに対して、西方の同地溝帯内では比較的顕著な遺跡が多数確認され、特に後半期(EB III-IV期 : 前2700-2000年)に増加する傾向が明らかとなった。後者の傾向はショウバック北地域とほぼ一致し、環境的境界地域に所在する当該地域は西方の文化圏に属する可能性が示された。 3 ヨルダン渓谷北部、イスラエル側(西側)における前期青銅器時代資料の観察を行い、ヨルダン渓谷・死海地溝帯内では南北で技術伝統が類似する可能性が明らかになった。これは、同渓谷南北を通じて物質文化の交流があった証左であり、これまで不明であった銅生産拠点フェイナンやショウバック北地域を同時代に利用した人間集団の出自・交流に光をあてうる成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究実施計画に挙げた調査項目(ショウバック北地域等の考古学調査とデータベース構築、及び、周辺地域のデータ集成・比較分析作業)を順調に実施できたため、研究の進捗状況は概ね良好と判断している。こうした成果の一部は、下記論文・学会発表等で公にされており、この点においても研究目的は比較的達成されている状況と判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、今後は以下の諸項目に集中して推進されることになるだろう。 1)ショウバック北地域における分布調査成果の整理作業 2)ショウバック北地城における前期青銅器時代遺跡データ等の整理・分析作業 3)西方の銅生産拠点、フェイナン地域の前期青銅器時代遺跡・遺物データ分析作業 4)死海地溝帯西側(イスラエル南部)の前期青銅器時代遺跡のデータ集成・分析作業(継続) 上記の諸作業により、本研究はその目的を達成し、ショウバック北地域を中心とする環境的境界地域が前期青銅器時代の「都市化」という文脈で担った役割について具体的に説明することが可能となるだろう。
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Research Products
(3 results)