2012 Fiscal Year Annual Research Report
神経系・心筋を侵すレトロウイルスの病原性発現機構の解明
Project/Area Number |
12J02172
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
中村 小百合 北海道大学, 大学院・獣医学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | トリ白血病ウイルス / グリオーマ / 心筋異常 / IL-1β |
Research Abstract |
申請者らはトリのグリオーマの国内初発例を発見し,その原因はレトロウイルス科αレトロウイルス属のトリ白血病ウイルスA亜群(ALV-A)に属すfowl glioma-inducing virus(FGV)であることを明らかにした。加えて,九州地方のグリオーマ罹患鶏に心筋異常が発見され,心筋症の発生にALV感染が関与することが浮き彫りになってきた。しかしながら,これらの病原性の分子基盤(原因となっている蛋白や遺伝子)は明らかになっていない。そこで,本年度は心筋異常が発生した九州地方の鶏群から分離されたALV,Km_5666株を用いた感染実験を行い,その病原性を明らかにした。Km_5666は実験感染鶏にグリオーマを誘発し,さらに稀に異型心筋線維の塊状増殖を特徴とする心筋異常も誘発した。このことから,グリオーマ誘発ALVはグリオーマ,小脳低形成,神経周膜腫に加えて,心筋異常を誘発することが明らかになった。一方,Km-5666のグリオーマ誘発能は過去の感染実験で用いたFGV変異株,Sp-53のそれよりも低かった。このことから,グリオーマ誘発ALVにはグリオーマ誘発能に差が認められることが分かった。そこで,このグリオーマ誘発能の差が鶏の脳内におけるウイルス増殖とそれに起因する宿主反応に起因するかを調べた。その結果,強いグリオーマ誘発能をもつSp-53はグリオーマ誘発能を持たない株より鶏星状膠細胞で高い増殖能を示した。さらに,ウイルス量を3段階にふってSp-53をSPF鶏に接種して星状膠細胞の増殖と脳内の宿主細胞メディエーター発現量を検索したところ,接種ウイルス量が多いほど星状膠細胞の増殖が強く誘導されるとともに,IL-1βの発現がウイルス量と相関して増加した。このことから,感染初期の星状膠細胞の増殖はIL-1βによって主に誘導されることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的は1)新たに分離されたALVの病原性解析,2)遺伝子組換え体による病原性解析,3)LTRの機能解析,4)転写因子の同定と比較,5)神経病原性の解明と発癌予防の検討である。1)については九州地方で新たに分離された株,Km_5666を用いた感染実験を行い,この株が心筋異常を誘発することを明らかにした。さらに,2)については作製したキメラウイルスを用いた感染実験を現在行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
グリオーマ誘発ALVの遺伝子断片を組み込んだプラスミドを作製し,それらを初代鶏星状膠細胞および心筋細胞ヘトランスフェクションして細胞性状を観察する。加えて,FGV感染性cDNAクローンおよびALV-A由来トリレトロウイルスベクターRCAS(A)をベースとしたキメラウイルスを作製し,感染実験を行う。これらの実験により,ALVが引き起こす神経および心筋への病原性の分子基盤を明らかにする。
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