2013 Fiscal Year Annual Research Report
神経系・心筋を侵すレトロウイルスの病原性発現機構の解明
Project/Area Number |
12J02172
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
中村 小百合 北海道大学, 大学院獣医学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | トリ白血病ウイルス / グリオーマ / 心筋異常 / IL-1β / mammalian target of rapamycin / Akt |
Research Abstract |
申請者らはトリのグリオーマの国内初発例を発見し, その原因はレトロウイルス科αレトロウイルス属のトリ白血病ウイルスA亜群(ALV-A)に属するFowl glioma-inducig virus (FGV)であることを明らかにした。加えて, 九州地方のグリオーマ罹患鶏に心筋異常が発見され, 心筋症の発生にALV感染が関与することが浮き彫りになってきた。しかしながら, これらの病原性の分子基盤(原因となっている遺伝子や蛋白)は明らかになっていない。昨年度は心筋異常が発生した九州地方の鶏群から分離されたALV株, Km_5666を用いた感染実験により, グリオーマ誘発ALVがグリオーマ, 小脳低形成, 神経周膜腫といった神経病変に加えて心筋異常を誘発することを明らかにした。本年度は, ALVにより誘発された心筋異常を免疫組織学的に検索し, 発生機序を考察した。ALVにより誘発された肥大心筋線維は免疫組織学的にリン酸化Aktおよびリン酸化Tuberinに陽性を示した。これらの分子はPI3K/Akt/mTORシグナル経路に含まれる蛋白であり, ヒトではPI3K/Akt/mTOR経路が活性化することで細胞でのタンパク合成が盛んになり, 細胞が肥大することが知られている。したがって, ALVはPI3K/Akt/mTOR経路を活性化することで心筋の肥大を誘発している可能性が示唆された。これらの成績は動物のみならずヒトのレトロウイルス誘発性心疾患の発生機序解明に役立つものと考えられる。さらに, 鶏初代アストロサイトの分離培養法を確立したことにより, グリオーマ誘発ALVの病原性発現機構の検索がin vitroで実施できるようになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的は1)新たに分離されたALVの病原性解析, 2)遺伝子組換え体による病原性解析, 3)LTRの機能解析, 4)転写因子の同定と比較, 5)神経病原性の解明と発癌予防の検討である。1)については九州地方で新たに分離されたALV株, km_5666を用いた感染実験を行い, この株が心筋異常を誘発することを明らかにし, この発生機序にALVによるPI3k/Akt/mTORシグナル経路の活性化が関与している可能性を明らかにした。さらに, 2)については新たに1つのキメラウイルスを作製し, 昨年度作製したキメラウイルスと合わせて感染実験を現在行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究目的1)の新たに分離されたALVの病原性解析については, まず鶏の初代心筋細胞の培養法を確立する。その後, 心筋病原性を示すKm_5666の遺伝子断片を組み込んだ発現プラスミドを作製し, 初代心筋細胞にトランスフェクションして細胞性状を観察する。研究目的2)の遺伝子組換え体による病原性解析についてはキメラウイルスの感染実験を継続する。研究目的3)LTRの機能解析および4)転写因子の同定と比較については, グリオーマ誘発ALVの遺伝子断片を組み込んだプラスミドを作製し, その後初代鶏アストロサイトヘトランスフェクションして, 細胞性状を観察するとともにウイルス遺伝子と相互作用する蛋白の同定を試みる。
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