2012 Fiscal Year Annual Research Report
1920年代から40年代の中国における政論家の思想と活動
Project/Area Number |
12J02189
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
森川 裕貫 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員PD
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Keywords | 中国近代史 / 政治思想史 / 政論家 / 張東? |
Research Abstract |
本年度は1910年代から40年代の中国にあって、自由主義、民主主義、社会主義などに対して深い思索を加え、それらに関連する多くの政論を発表して言論界を牽引した一人である張東〓という人物について集中的な考察を行った。 具体的には、まず1910年代の張東〓の言論を検討した。1912年に成立した中華民国にふさわしい政治の仕組みとして、張東〓は政党内閣制度により立法権と行政権の融合を果たし、強力な政府を成立させて中国の統合を実現することを企図した。しかしこの構想は、大総統袁世凱による専制的権力行使により失敗に終わる。こうした事態に対して張東〓は、新たに連邦制の導入を唱え権力の過度の集中を抑制する体制の構築を目指した。以上の内容については、京都大学人文科学研究所共同研究班「現代中国文化の深層構造」(2012年6月15日)にて「1910年代における張東〓の政治制度構想」と題する報告を行い、コメンテーター水羽信男氏をはじめとする諸氏の丁寧な批正を受けた。現在、その成果を公表すべく学術雑誌に原稿を投稿中である。 また1930年代、特に満洲事変以降の張東〓の言論についても検討した。中国にとって国難とされたこの時期に、張東〓は国民党による抑圧的政治運営に抵抗して民主政治の重要性を訴える。しかしその民主政治とは、議会を通じた通常の民主政治ではなく、専門家の役割を重視する「修正的民主政治」と呼ばれるもので、この修正された民主政治に基づいて、国難の克服が目指されたのである。この点については、2012年度日本現代中国学会全国学術大会にて報告を行い、貴重なコメントを得た。その成果は、「民主と独裁をめぐる論争における張東〓の論理」『中国研究月報』2013年5月号に掲載される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
受け入れ研究機関である京都大学、および上海やロンドンでの史料調査により多くの貴重な史料を収集し、それに基づいて1910年代と1930年代の張東蒸について、学術雑誌に成果を公表すべく取り組んでいる(後者については、まもなく刊行予定)。また1940年代の張東蒸についても、史料の収集・読解を進め、その成果を公表すべく準備を進めている。なお張東孫とも密接な関係を持つ五四時期の思想・社会状況についても検討を進めており、その成果の一端を「廃止か改良か――五四時期の試験をめぐる論争」(中国社会文化学会、東京大学、2013年7月6日)にて報告の予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、京都大学の所蔵する豊富な史料を基礎にしつつ、併せて海外での史料調査も行い、研究遂行に必要な史料の収集を進める。それらの史料に基づき、準備を進めている1940年代の張東〓について成果の公表を目指す。 また張東孫以外の政論家についても、特に1930年代以降の胡適グループを中心に考察を行い、中国近現代の政治思想理解を深めたいと考えている。その際、彼らが残した著作に加えて、日本には所蔵されておらず、従来の研究ではまだそれほど使用されていないが、当時の知識人の動向をよく伝えていた日刊紙『世界日報』や『北平農報』にも注意を払う。そうした考察と並行して、五四時期の思想・社会状況についての検討も引き続き進める。その際には、知識人個人の著作や雑誌に加えて、『時事新報』や『民国日報』(上海)などの日刊紙にも留意したい。
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Research Products
(1 results)