2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J02214
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 温 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 幕末 / 文人 / 大名 / 書面鑑定 / 堀直格 / 扶桑名画伝 / 須坂藩 |
Research Abstract |
平成24年度の研究においては、研究主題1大名の文事とその社会性」に基づき、幕末期の大名の文芸活動の例として特に須坂藩第11代藩主堀直格に着目し、幕末有数の蔵書家・書画収集家としても知られた直格による『扶桑名画伝』の編纂事業の実態を明らかにした。(成果は研究論文「『扶桑名画伝』の編纂と堀直格の文芸活動」として『近代画説』第21号に発表した。)同書は古今の日本の画家を網羅した大部にわたる名鑑で、前近代における書画情報の網羅的編纂物として高い価値が認められてきたものの、今日一般に参照されるところの哲学書院印行本が未特定で、その編纂状況も不明のままであるという問題点を抱えていた。そこで、これまでほとんど検討の対象とされてこなかった残存する諸写本の整理と比較を行い、各写本が編纂の諸段階を示すこと、前述の哲学書院印行本が東京国立博物館所蔵本を底本としていると見られること、またその編纂に直格の周辺の文人たちが大きく寄与していたことを明らかにした。特に、三点目については編纂に関わる資料の借覧や、情報の収集にあたって、先に触れた直格周辺の鑑定家の人脈が深く関わっているという事情が見えてきた。このことは、幕末の文人たちの会合が高度な学問的達成を支える環境を提供するものであったという事実を新たに提示するものである。また、本研究では合わせて『扶桑名画伝』の編纂方針にも注目し、古代から同時代までの日本の画家を位階順の配列のもとで網羅的に取り上げる同書の姿勢が、「日本(人)の画家」という概念枠を強く意識していることを指摘した。これは、近代国民国家の成立とともに「日本美術」あるいは「日本画」という概念が成立する以前に、日本の画と画家の歴史を体系化しようとしていた点において、同書が日本美術史を考える上で重要な意味を持っていることを示唆するものであると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では3年間の研究計画のうち1年目の「憂国の文人と文芸」に基づいた研究を行う予定であったが、事前の研究の進展状況、および研究成果発表の機会との関連から、予定を変更の上で3年目の研究主題として設定していた「大名の文事とその社会性」について研究を行った。同主題で目標とした課題について、前半期は目標が達成されたが、後半期についてはおおむね順調に進展しているものの、資料の収集・整理と解読に当初の予定以上の時間を要することが判明したため継続的な調査・研究を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの達成度」に記した通り、平成24年度には3年目の研究主題に前倒しで取り組んだため、平成25年度においては当初の1年目の課題「憂国の文人と文芸」に中心的に取り組む形で研究計画を再構成する。その上で、平成24年度において継続的な調査・研究が必要とされた後半期の課題に並行して取り組むこととする。
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Research Products
(1 results)