2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J02214
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 温 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 大橋巻子 / 『夢路の日記』 / 大橋訥庵 / 菊池教中 / 幕末 / 攘夷運動 / 勤王の志士 |
Research Abstract |
今年度は、当初1年目に予定していた研究主題「憂国の文人と文芸」について、以下のような課題を設定して研究を行った。当初は上述の主題において、大橋訥庵や藤森弘庵など幕末の文人たちの攘夷言説が形成され伝播していく過程に注目し、その諸相を論じることを目標としていたが、1年目から継続している調査などを踏まえ、特に次のような課題を検討することが研究の進展上望ましいとの結論に至った。 今回取り上げたのは、当初同主題において中心的に取り上げる予定であった幕末の儒家大橋訥庵の妻にあたる、大橋巻子の文芸活動である。文久2年(1862)1月、攘夷派の水戸浪士らが老中安藤信正を襲撃する(坂下門外の変)。この計画に関与した廉で、同年の1月から2月にかけて大橋訥庵、その婿養子の大橋陶庵、そして訥庵の義弟の菊池教中らが幕府に逮捕され、訥庵と教中はそれぞれ半年近い獄中生活を経て出獄直後に病死するという最期を迎えている。この訥庵の妻であり教中の実姉にあたる大橋巻子は、訥庵らの釈放を自宅で孤独に待ち続ける日々と、その死への哀悼を『夢路の日記』と題した和歌物語として著した。 興味深いことに、巻子は同作で訥庵や教中らの時局的活動への取り組みとその後の捕囚の日々を描く上で、物語の構成や描写において、取り上げる事実の意識的な取捨選択や様々な創作を行っている。また、巻子が本作を執筆したのは一件の終局から間もない時期であり、ここには訥庵らの事績を勤王の文脈において意味付けつつ、それを即時的に同時代の人々に発信しようとした巻子の意図が反映されていると見られる。したがって、勤王の志士としての訥庵・教中像のひとつの原点は、この『夢路の日記』にあると考えられる。 以上の研究結果をもとに論文「志士の妻が綴る哀悼と顕彰の物語―大橋巻子『夢路の日記』執筆の背景―」を執筆し、投稿済み(『総合文化研究』第20巻1号、日本大学商学部)である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目における研究計画の変更を受けて、当初1年目に予定していた研究主題に取り組むこととなったが、研究課題を見直した上で概ね企図した成果を得られた。ただし、当初予定していた主題との関わりにおいて、当初の研究課題「売文と勤王活動―攘夷の志士の文事をめぐって―」に相当する内容は、今後も継続的な調査・研究が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目、2年目における研究で継続的な検討が必要とされた課題について、今後重点的な研究を行う。これらは、当初2年目に予定していた研究主題「文人の領導意識」と合わせて、包括的な視点から検討することが可能であると考えられるため、その方向性で研究計画を再編成した上で3年目の研究を実施することとする。
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