2012 Fiscal Year Annual Research Report
嘉慶期から清末にかけての清朝のチベット政策を通してみる清朝-チベット関係
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12J02285
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
野崎 くるみ 筑波大学, 大学院・人文社会科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ダライラマ九世 / 嘉慶年間 / 清朝 / チベット / カシャク政府 / 二十九条章程 |
Research Abstract |
本年度は、2012年10月25日から2013年2月28日まで中国チベット自治区ラサ市に滞在し、ラサ市内の清朝関連寺院や碑文のフィールド調査を行うとともに、西蔵大学でチベット語史料の翻訳・分析を行ってきた。また2013年3月3日から3月10日まで中国北京市に滞在し、嘉慶年間のチベット社会の諸相や勢力構造に焦点を当てて、中国第一歴史梢案館にて「軍機処録副」中の満文・漢文梢案の調査を行った。 本年度の具体的研究成果は以下のものである。まず、嘉慶年間初期に起こったダライラマ政権への弾劾と、ダライラマ九世の選定という二つの事柄に着目して検討を行った。その結果、当該時期の清朝-チベット関係は、清朝皇帝の意向の(場合によっては形式的な)順守という枠組みの中で、ダライラマ政権の当座の安定を最優先課題とするものであり、清朝がダライラマ政権とチベット社会に関与できる範囲は限定的なものであったことを明らかにした。この内容を「九世ダライラマの認定から見た清朝-チベット関係」として、2012年7月14日に野尻湖クリルタイ(日本アルタイ学会)で発表した。更にチベットの第二の勢力であったタシルンポに焦点を当て分析し、嘉慶年間初期のチベットはカシャク政府のみがチベソト全土で均質的な統治を行っていたのではなく、複数の政体が地域に根差して互いに均衡を取りながら支配を行っていた地方勢力(宗教組織)の緩い連合体制であったことを明らかにした。またその上で、カシャク政府によるゲルク派の一極支配という理解は、清朝とカシャク政府双方の必要性によって成立した便宜上の形式に過ぎないとの見解を得た。この成果は2012年10月20日歴史人類学会において「18世紀末から19世紀初頭にかけての清朝のタシルンポ政策-『二十九条章程』の検討を中心に-」と題して口頭発表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は嘉慶年間初期のチベットの具体的社会体制や諸勢力の構造を明らかにし、その上で清朝がチベット情勢をどのように認識し、カシャク政府に限定されないチベットの諸勢力との関係を構築していったかを解明し、複数回の口頭発表を行うなどの成果を得ている。また、長期間の中国チベット自治区ラサ市滞在により、ラサ市における清朝関連史跡のフィールド調査やチベット語史料の分析も着実に進めており、来年度におこなう嘉慶期以降のチベットと清朝の関わりについての史料が収拾できている。更に、本年度の研究成果の一部を、2014年7月、モンゴル・ウランバートルでのInternational Association for Tibetan Studiesで発表することが決定している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に引き続き、中国チベット自治区ラサ市に滞在し、チベット語史料の収集・分析を進めるとともに、ラサ市および周辺都市でのフィールドワークを行う予定である。これらの史料とあわせ、本年度中国第一歴史梢案館で収集した満文・漢文梢案史料、および既刊の漢文・英文史料などもあわせて分析していく。また、本年度の研究遂行過程で、本テーマにおける文化人類学的手法の有効性について認識した。これまで行ってきた文献史学の研究手法に加え、文化人類学の方法論も積極的に取り入れていきたい。来年度は嘉慶年間初期以降のチベットの社会や勢力構造の変化に着目し、それに対し清朝がどのように認識し、また具体的政策を取ったか(取らなかったか)かについて解明し、当該時期の清朝-チベット関係の具体像を提示する。
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Research Products
(2 results)