2013 Fiscal Year Annual Research Report
八世紀インドにおける哲学者たちの知的交渉-『摂真実論』開経偈の原典研究-
Project/Area Number |
12J02334
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松岡 寛子 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(PD)
|
Keywords | 『摂真実論』 / シャーンタラクシタ / シャーンタラクシタ / 他心知 / 一切知者 / 自己認識論 / sahopalambhaniama論証 / samvedana論証 |
Research Abstract |
平成25年度は、仏教論理学派の展開期を代表する中観派論師シャーンタラクシタ(8C)が著した全26〓3645詩節からなる『摂真実論』のうち、6詩節からなる開経偶とそれに対する弟子カマラシーラ(8C)の『注〓に関する、ジャイナ教寺院収蔵2写本に基づく批判的校訂サンスクリット語テクスト、及びその訳注の試〓版を完成した。 「雑誌論文1」では、『摂真実論』においてシャーンタラクシタが、一切知者たる仏陀が衆生の心を知るこ〓(他心知)をどのように解釈しているかについて考察した。シャーンタラクシタによれば、ブッダが「一〓知者」と呼ばれるのは一切を認識するからではなく、一切衆生の利益を実現するからである。この一切知〓観は唯識派の自己認識論に立脚している。 「学会発表1」では、仏教論理学派の先師ダルマキールテイ(7C)が対象とその認識の不異性を論証する際に〓したsahopalambhaniyamaという証因の解釈可能性を『摂真実論注』におけるカマラシーラの解説に従って〓理し、発表した。五種の解釈可能性のうち、ダルマキールティ、及びシャーンタラクシタの意図に従うのはカマラシーラによれば、「〔対象の〕認識が必然的に〔対象の認識の〕認識にほかならないこと」という解〓のみである。 「学会発表2」では、『摂真実論』においてシャーンタラクシタが、ダルマキールティの自己認識論を特徴付ける論証である、「〔必ず〕一緒に認識されること」に基づく対象とその知の不異性を証明する論証(sahopalambhaniyama論証)、及び「認識〔であること〕」を証因とする認識以外を対象とする認識を否定する論証(sarpvedana論証)をどのように思想史的に位置づけているのかについて、ミーマーンサー学派クマーリラ(6C)と関連させて考察した。この内容をとりまとめ、「雑誌論文2」として発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『摂真実論・注』の批判的校訂サンスクリット語テクスト、及びその訳注の試行版を完成した。ヘルムート=クラッサー博士が所長を務めるオーストリア科学アカテミーアシア文化・思想史研究所(IKGA)への受け入れは決定していたが、博士の体調不良と逝去により、実現しなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成26年度中にその改版を作成し、写本状況の紹介を含む序文、既存テクストから改めた箇所の一覧、引用される人物及び文献の一覧、及び索引を付してとり纏める。また、この成果に基づき、『摂真実論』、及びこの題目の「真実」が意味する縁起の理解が、空の理解を最終的な到達点とするシャーンタラクシタにとって、いかなる意義をもつのかを考察する。研究成果は国内外の雑誌と学会で随時公表していく。2015年8月18-23日にオーストリアのウィーン大学で開催される、第17回国際仏教学術大会への発表申し込みが受理されている。
|
Research Products
(4 results)