2012 Fiscal Year Annual Research Report
語彙の概念習得における文脈読解の機能:心的イメージの構築に注目した語彙学習モデル
Project/Area Number |
12J02568
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
長谷川 佑介 筑波大学, 大学院・人文社会科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 語彙習得 / 意図的語彙学習 / 文脈 / 英語教育 / 心的イメージ |
Research Abstract |
文脈の読解を伴う語彙学習の効果を検証するための第一段階として、文脈の読解によって構築される心的イメージが持つ「語彙知識を再生する際の手がかり」としての効果に焦点を絞った研究を行った。まず、日本人大学生に文脈内で未知の英語語彙を学習させ、その学習成績をいくつかの事後テストによって測定する実験を行った。語彙学習および再生の手がかりとして、心的イメージの構築が起こりやすい文脈(高心像性文脈)とそうでない文脈(低心像性文脈)を比較したところ、高心像性文脈で学習した目標語はどのような学習者にも比較的よく再生されたのに対して、低心像性文脈では語彙力の低い学習者群の成績が有意に低下した。しかし、文脈の読解時に構築される心的イメージを語彙知識と関連づけるというプロセスは、学習者が意識的に文脈内容をイメージした場合にさらに促進される可能性もある。そこで、通常の学習条件と文脈内容を思い浮かべるような指示を与えた学習条件(イメージ教示条件)とを比較する実験を行った。その結果、語彙力の低い群の学習成績が最も高まったのは、高心像性文脈とイメージ教示を組み合わせた条件下で目標語を学習した場合であった。しかし、このとき統計的に有意であったのは心像性の影響のみであったことから、イメージ教示の有無よりも文脈の性質のほうが重要な影響を与えていたと考えられる。本年度の研究から、文脈内での語彙学習には、文脈の心的イメージと目標語の意味概念を結びつけるプロセスが含まれ、文脈の読解時に豊かな心的イメージを構築できるかどうかが重要な要因であるという可能性が示された。特に、語彙力を観点とした学習者の熟達度が十分に高ければ、心的イメージの構築が比較的しづらい条件下でも高い学習成績を挙げることができるが、そうでない学習者にとっては文脈の内容をイメージできるかどうかが学習成績に重要な影響を与えることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
語彙の概念習得における文脈読解の機能を明らかにするという3ヶ年を通しての目標を達成するために、当初の計画におおむね従った実験と分析の実施を行うことができた。特に、文脈の特性と学習者の特性の間に交互作用がみられるという発見が得られたことは意義深く、今後の研究の妥当性を示すものであると考えることができる。また、この研究成果は国内のジャーナル(査読あり)に掲載され、また海外学会での発表等を通して国内外の研究者から有益なフィードバックを得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では、次年度の焦点は文脈内語彙学習における概念習得を検証することであったが、それに並行して学習者の熟達度の影響をさらに詳細に検証する必要も生じている。本年度の研究からは、実験協力者の中で語彙力の低い層において特徴的な傾向が見られたが、実験協力者を募集した母集団は比較的熟達度の高い大学生を中心としたものであった。より熟達度の低い学習者を対象に含めた実験を行うことで、文脈の心的イメージの影響と学習者の能力との対応関係をより具体的に解明することができると思われる。そこで、学習者の熟達度による影響をより詳細に検証したうえで、文脈の読解と語彙の意味概念の習得との関係を検証していく予定である。
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Research Products
(7 results)