2012 Fiscal Year Annual Research Report
超高速時間分解分光法およびX線分光法によるイオン液体溶媒和構造の実時間計測
Project/Area Number |
12J02586
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
村松 正康 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 溶媒和ダイナミクス / イオン液体 / 時間分解蛍光測定 / X線小角散乱測定 |
Research Abstract |
溶媒和ダイナミクスは溶液系での反応を制御する重要な因子であり、古くから多くの研究が行われてきたにも関わらず、その空間的な情報はほとんど得られておらず、溶媒和に酸化する溶媒分子の概数すらも明確になっていない。本研究では、イオン液体溶液中での溶媒和構造の空間的階層性を明らかにすることを目的として実験を遂行した。本年度はイオン液体で基底状態での溶媒配置の違いが溶媒和ダイナミクスに及ぼす影響を明らかにするため、種々のイオン液体中で対称形溶質および非対称形溶質を用いて、時間分解単一光子計数法(TCSPC)および過渡吸収測定法を用いて溶媒和ダイナミクスの比較を行なった。その結果、イオン液体の平均溶媒和時間は数100ps~数ns程度であり、ほとんどのイオン液体では>10psの時間領域での溶媒和ダイナミクスには溶質の分極(初期の溶媒配置)の影響が観測されなかったのに対して、<10psの時間領域には顕著な溶質依存性が現れており無極性溶質に対する溶媒和ダイナミクスが遅くなっていた。イオン液体の溶媒和ダイナミクスには大きな空間的、時間的階層性が存在し、ある種の溶媒応答、たとえば溶質周辺の溶媒和のわずかな揺らぎなどは溶媒の初期配置に敏感であるが、それに引き続くより広い領域でのダイナミクスは溶媒の配置にほとんど影響されないと考えられる。また、Phosphonium系イオン液体は例外的な応答を示し、<10psの高速なダイナミクスは観測されず>数百psの長時間領域まで明確な溶質依存性が観測された。このことから、初期の溶媒応答が起こることで溶質の電荷が効率的に遮へいされて、その後のダイナミクスの進行に大きな影響が与えられている可能性が示唆された。したがって、溶媒和構造の空間的階層性を明らかにする上で、溶媒和ダイナミクスの進行の仕方がこれまで以上に重要な意味を持つことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書の研究計画のうち、通常の時間分解分光手法による溶媒和ダイナミクスの測定および溶媒和構造の間接的な推定に関しては順調に進展しており、当初の予定以上に進行している部分もある。しかし、X線小角挙散乱を用いた直接的な溶媒和構造の測定に関しては大規模放射光施設のマシンタイムの制約がありやや遅れている。全体としては、現状では溶媒和ダイナミクスの空間的階層性を示唆するデータは多く得られているが、それに対する直接的な証拠となる実験結果が不足している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も溶媒和構造の空間的階層性を多方面から追求していく。時間分解測定による間接的手法は順調に進展しており、大きな方向転換の必要性は少ない。時間分解能の向上や励起波長の変化により、より広範な測定を可能としていく予定である。 一方、溶媒和構造の直接観測においては大型放射光施設のマシンタイムに依存しない方法で研究を推進していく必要がある。そのため、個別の研究室で測定可能な、超短パルスレーザーを用いた構造測定手法の開発を行なう。最初は、測定が容易であると考えられる静電場中での溶媒の配向状態を観測することを試み、最終的に溶液中の溶媒和構造の測定を目指す。
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Research Products
(6 results)