2012 Fiscal Year Annual Research Report
境界研究から見る「北極」‐デンマークの北極圏戦略と媒介項としてのグリーンランド
Project/Area Number |
12J02714
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
高橋 美野梨 北海道大学, スラブ研究センター, 特別研究員(PD)
|
Keywords | 北極 / グリーンランド / デンマーク / 境界確定・画定 / 資源開発 / 航路開発 / 自治 |
Research Abstract |
本研究の意義は、デンマークの北極戦略を通じて先行研究が十分に扱い切れていない北極の境界問題における「権力の空間分析」を行っている点にある。本年度は、北極研究の世界的拠点であるノルウェー・トロムソでの在外研究を通して得た知見に基づき、先行研究に抜け落ちていた二つの空間的視座:「沿岸5ヵ国」と「NORCs8ヵ国」を提示することで次年度以降の研究の基盤作りを行った。沿岸5ヵ国とは国連海洋法条約の規定に基づき北極海域との地理的近接性を有する主体を指し、NORCs8ヵ国とは北緯45度以北に位置する主体を指している。これまでの北極は、当海域の厚い海氷の存在によって実際の境界確定や資源採掘を行うには十分な環境を有していなかったため、北緯45度以北というより広範な地理的空間としてのNORCsが議論の中心となってきた。当海域に係わる共通課題を議論する場としてNORCsを中心とする北極評議会が重視されてきたのはその証左である。しかし、近年の気候変動に伴う海氷の溶解によって北極は、資源・航路開発を行うに十分な環境を有する海域へと変質し、北極海域との地理的近接性というより局地的な視座が、実際の外交の場で意味を持ち得るようになった。なかでも、デンマークはこの二つの視座に最も意識的であらなければならない主体であった。デンマークは、自身が北極海域と地理的に近接していない点でNORCsとしての権利のみ有する主体であり、北極圏域の資源・航路開発に伴う権益を享受し得る法的主体であるが、北極海域と地理的に近接する自治領グリーンランドを介することで、北極海域での海洋権益を享受する法的主体でもあり、根拠を異にする二つの地理的近接性を有する唯一の主体となっている。本研究は、このようなデンマークの地理的・法的立場を主な分析対象としつつ、沿岸国、NORCsの二つの視座から当海域の境界問題を捉え直す試みである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度の目的は、社会科学分野における北極研究(先行研究)の収集・整理にあったが、今年度はそれを上回る成果があった。一つは、国内外の機関において資料収集(北海道大学付属図書館、ノルウェー・トロムソ大学及び極地研究所図書館)・インタビュー調査(ノルウェー海洋研究所、北極評議会事務局)を行うことができ、さらにそれを様々な場所(インド、韓国、日本)で報告することができたこと。もう一つは、今日の北極海域の動向を説明し得る空間的視座としての「沿岸5ヵ国」と「NORCs8ヵ国」の二つを提示できたこと。この二つの視座を北極の境界問題に当てはめつつ、当問題の実相を実証的に明らかにしていく作業は次年度に向けた課題である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は、インプット作業を主な目的としてきた。とりわけ、社会科学分野における北極研究の世界的拠点であるノルウェー・トロムソにて資料収集・インタビュー調査を行えたことは、次年度以降のアウトプット作業に大きな意味を持つものとなった。次年度は、1年目で収集・整理した北極研究に関する最新の情報を加味しつつ、アウトプット作業に比重を移していきたい。特に2011年に刊行した北極の境界問題に関する論文の中で提示した「地理的中立」というオリジナル概念のブラッシュアップは、直近で取り組むべき作業であると考えている。また、既に決まっていることとして、北海道立北方民族博物館・平成25年度特別展『極北の島グリーンランド』展での講座担当やNHK、朝日新聞等のメディアに対するアドバイスを含むアウトリーチ活動を通して、自身の専門知識や情報を広く社会に還元していきたい。
|
Research Products
(8 results)