2012 Fiscal Year Annual Research Report
外部性についての思考における『場』の問題-レヴィナスの形而上学と倫理的経験
Project/Area Number |
12J02747
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐藤 香織 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
|
Keywords | レヴィナス / 主体性 / 時間論 / 現象学 / ドイツ観念論 / ローゼンツヴァイク / 他者論 / 倫理 |
Research Abstract |
今年度はパリでの研究に力を注ぎ資料収集に専念するとともに、今年度のテーマである「レヴィナスの哲学における倫理的経験の具体性の所在」についての研究を進めた。レヴィナスにおける形而上学はどのような意味において具体的な倫理的経験として生じるのか、すなわち、絶対的他性としての無限と主体との関係を直ちに具体的な他者と自我の関係と結びつけるときに生じる諸々の問いや様相をいかに思考しうるか、という問いが考察の中心である。レヴィナスの分析する主体の倫理的経験は、「主体の成立」と「〈(無限であるとともに具体的な他者の他性でもある)他〉と主体の関わり」という二つの出来事に直接に結びついている。しかし、これらの出来事の生じる場を考えるためには、目的論的な時間概念、過去、現在、未来と線的に進む時間概念によっても、さらにハイデガーの述べる現存在から考えられた時間性によっても捉えきれない時間性を想定しなければならない。「主体が成立する出来事」と「〈他〉と主体の関わり」の時間的関係は、これらの時間概念によって捉えられることがないからである。この時間性の構造を明らかにするために、私はシェリング-ローゼンツヴァイクーレヴィナスと受け継がれていく時間論の系譜を見直すことから始めた。様々な倫理的経験が生じる場についての分析の諸相は、この特異な時間性から出発して考えられるべきだと考えたからである。 今年度の研究は、具体的には、(1)シェリングの『世界の暦年』がローゼンツヴァイクの『救済の星』に与える影響の分析(2)ローゼンツヴァイクにおける「創造」「救済」に対する「啓示」概念の優位性についての分析、およびレヴィナスにおける「創造」「啓示」についての論述との比較(3)他者の異邦性についての論に関わる「歓待性」および「教え」によって築かれる社会的関係の分析を含む。 今年度の成果をもとにし、2年目以降に論文を発表していく。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
24年度は、国外における資料収集を中心としていたこともあり、論文発表や学会における報告などはできなかったものの、次年度以降のための準備をしっかりとすることができた。特に、計画書の時点ではあまり深く研究する予定のなかった、シェリングの重要性を見いだした成果は大きかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年は日本での活動、特に学会発表および論文発表に力を入れる。具体的には、日仏哲学会および現象学会での発表、および発表をもとにした論文投稿を考えている。論文では、レヴィナスにおける戦争および平和に関する論とその形而上学的意味の探求、および、〈赦し〉という倫理的出来事に関する考察を行う。これらの発表は、本研究課題における、レヴィナスの形而上学と具体的な「場」における倫理的経験をつなぐ考察において、中心的な役割を果たすものとなる。これらは、ドイツ観念論やユダヤ思想もふまえた上で。レヴィナスの哲学とハイデガー存在論の関係の見直しをすること、および、レヴィナスの「倫理」の具体性を見極める助けとなる。
|