2013 Fiscal Year Annual Research Report
親密な関係と暴力が共存する共同体の理論的解明--バタイユの共同体論を中心に
Project/Area Number |
12J02805
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
宮澤 由歌 大阪大学, 大学院人間科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | フランス現代思想 / 文献学 / ジョルジュ・バタイユ / 共同体理論 / 哲学 |
Research Abstract |
本研究では、ジョルジュ・バタイユにおける暴力と共同体の問題を解明することを目的としている。2013年においては、バタイユ全集の全体的な精読をとおし、公刊を見通した博士論文の執筆のためのキーワードをまとめ、各学会で発表した。具体的に挙げられる成果としては、3度の個人発表と、1本の査読論文掲載がある。 まず、5月にリスボンで行われたDeleuze Studies Conference(国際学会)でマゾヒズムを軸とする共同体について検討し、個人発表を行った。マゾヒズムは心的機構として共同体にとってなくてはならないものである上、暴力との連関において考えられ、その可能性を提示することができた。 さらに、11月のクィア学会でレオ・ベルサーニにおける世界内存在と暴力について個人発表を行った。レオ・ベルサーニは、バタイユを参照しながら、共同体理論について検討する研究者である。彼の共同体理論は、バタイユからの影響を受け、それをセクシュアル・マイノリティの実践的な政治共同体と結びつけることが特徴である。こうした共同体理論の検討は、今後、バタイユ研究が実質的な共同体の問題解決へと接続される可能性を含んでおり、重要なものだといえる。 2014年3月に行われた日仏哲学会では、バタイユにおける女性性についてまとめ、個人発表を行った。今後、共同体考察を行う上で、ジェンダー論を参考にした性別の問題を取り扱うことは、必要なことであると考えられる。この問題を取り扱うことで、バタイユ研究、とくに共同体の問題を検討しはじめることができるようになった点で、意義があった。 査読論文については、「年報人間科学」に、バタイユの共同体における暴力性をテーマにした論考が掲載された。ここで取り扱った「恋人たちの共同体」は、今後の研究においてももっとも重要となるモチーフであり、バタイユにおけるこの概念の立場を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、育休明けで、こどもを完全に保育園に預けることが難しかった。週三回の保育園に通わせるあいだと夜間に、主に研究をおこなった。そのなかでも、2回の国内学会での個人発表、1回の国際学会での個人発表、1本の査読論文の掲載という結果を出すことができた。その他には、主要文献や資料の収集とその精読についておおむね順調に作業を続けることができた。公刊を目的とした博士論文のテーマについて、当該年度で決定することができ、目的に沿った研究を順調に進展させることができたとみなせる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、まず、原著を精緻に、またスムーズに読み込むことを目的に、よりいっそう語学学習を行なう必要があると考える。また、研究課題におけるいくつかのキーワードやテーマを文章化し、査読論文として掲載されることを目指して執筆することに重点をおく。実際的な政治的共同体の検討は控え、より文献学的検討の比重を増やすことで、バタイユの概念考察を深めていく。そして、これまでフランス文学の分野で論じられることの多かったバタイユの思想を、哲学史のなかに位置づけることを方針とする。
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