2012 Fiscal Year Annual Research Report
11世紀ビザンティン修道院の写本制作と都市における機能
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12J02899
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
辻 絵理子 一橋大学, 大学院・経済学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | ビザンティン美術 / 写本挿絵 / ストゥディオス修道院 / 聖堂装飾 / 西洋中世美術 / 修道院工房 / キリスト教図像学 / 詩篇写本 |
Research Abstract |
本研究は、11世紀ビザンティンの余白詩篇写本を中心に据えつつも、詩篇、四福音書、レクショナリー等のジャンルの枠に留まらず現存する写本を包括的に分析し、聖堂装飾や典礼との関わりを考察し、なおかつ修道院工房という単位での検討を試みるものである。研究初年度である平成24年度は、下記の研究を行った。 海外出張では、ヴァティカン図書館写本室における実見調査に加え、パレルモに現存する諸聖堂の調査を行った。ヴァティカン図書館の写本室では、他国の写本室に比べてまとまった期間オリジナルの写本を調査することが可能である。数百を超えるイメージを有する写本群の分析には時間が必要となるが、デジタル化が進む各国の写本室で二次資料の利用を求められるようになってきた昨今、未だに複数日に亘る閲覧を認め、かつ良質なコレクションを誇るヴァティカンでの調査は今後も中心に据えられるべきであろう。同写本室は余白詩篇形式以外にも優れた挿絵入り詩篇写本を有しており、今期はVat.gr.752の分析に取り掛かった。 また、詩篇第107、108篇の挿絵に見られる余白詩篇写本特有の構造を、各写本の対応テキストと銘文、レイアウトを比較しつつ分析し、聖堂装飾(フレスコ)における同様の試みも指摘した(「オリーブ山というトポス」、『エクフラシス』第3号)。同論文によって、余白詩篇写本の構造分析が聖堂壁画分析にも応用できる可能性が示されたと言えよう。 12月には、早稲田大学高等研究所のシンポジウムに招かれて口頭発表を行った。他分野の研究者も対象とする会であったため、ビザンティン写本の概説を中心に、現在の研究状況と展望を論じた。加えて、日本で初めてビザンティンの四福音書というジャンルを包括して論じた瀧口氏の著書を、写本研究の立場から、日本ビザンツ学会の会報にて紹介した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
写本室における実見調査の結果、1ジャンルに限定した写本研究の枠に留まらない、聖堂装飾との関わりを指摘する論文を発表することが出来た。また、比較文明史のシンポジウムへの招待発表を経て、他の分野の研究者との接点も生まれ、より広い視野を持って今後の研究を進めていくことが可能になった。
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Strategy for Future Research Activity |
挿絵入り写本の実見調査を引き続き行いつつ、聖堂装飾プログラムや典礼との関わりを重点的に探る。詩篇の内容を直接描く壁画はないが、詩篇内容を踏まえた聖堂装飾は確かに存在する。それらの指摘及び分析についても、今後研究の手を広げたい。そのためには聖堂内で行われた典礼との関連に注目することが肝要であると考える。 研究成果の発表に必要な写本挿絵の図版入手には多大な資金を要することが第一の問題であるため、厳選して必要不可欠なものを購入する。
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Research Products
(4 results)