2013 Fiscal Year Annual Research Report
11世紀ビザンティン修道院の写本制作と都市における機能
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12J02899
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
辻 絵理子 一橋大学, 大学院経済学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | ピザンティン美術 / 写本挿絵 / ストゥディオス修道院 / 聖堂装飾 / 西洋中世美術 / 修道院工房 / キリスト教図像学 / 詩篇写本 |
Research Abstract |
本研究は、11世紀ビザンティンの余白詩篇写本を中心に据えつつ、詩篇、四福音書、レクショナリー等の枠に留まらず現存作例を包括的に分析し、聖堂装飾や典礼との関わりを考察し、なおかっ修道院工房という単位での検討を試みるものである。第2年度目である平成25年度は、まず現存する余白詩篇写本の本文章句と図像選択、レイアウト等を、丹念に突き合せ比較した結果、11世紀の作例において細かい改変が意図的に為されており、一対一の対応関係を超えた仕掛けが施されている箇所を明らかにすることが出来た。そのうち《ペテロの否認》に始まる一連の挿絵が複数頁に亘って展開している箇所を取り上げ、ビザンティン美術、歴史を中心に扱うPatrimonium誌に英文で発表した。またフランス国立図書館写本室、及びヴァティカン図書館写本室において詩篇写本の実見調査を行った。なかでもヴァティカン図書館所蔵ギリシア語写本342番の調査で成果があった。同写本は特徴的で他に類例のないヘッドピースのみがいくつかの論文で言及されてはいるものの、この写本自体を論じるためではなく、華麗な植物文などの比較のために言及されるにとどまっていた。特異なヘッドピースは、新旧約の融合以上の理解は為されず、図像の記述も誤解を招くものであった。本年の調査において、先行研究の誤解を正すと共に、一写本の枠を超えた図像伝播の可能性を指摘することが可能となった。4月に京都で開催される日本ビザンツ学会全国大会にて、成果の一部を報告することが決定している。また、9月には教父研究会において発表を行った。ビザンティン美術には教父註解の影響も大きいため、美術史学と教父研究が相互に寄与し合うことが求められるのだが、世界的にもその試みは途上にある。同研究会は様々なご専門の方々が忌憚なく広汎な議論をされる素晴らしい場であり、有益な質疑を賜ることが出来た。今後も参加を続けたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本計画は複数のジャンルを視野に入れるとはいえ、あくまで写本を中心に据えたものであり、聖堂装飾との関わりまで繙くに至るにはより長い時間が必要と想定していたが、平成25年度の海外調査によって写本と聖堂装飾に及ぶ図像伝播の可能性を指摘することが可能となった。また、教父研究会にも参加させて頂いたが、同研究会は専門外の人間にも開かれた素晴らしい会であり、今後の研究に大きな助けとなることを確信している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も各国図書館写本室における実見調査を継続して行い、未出版や古いモノクロ図版しかない写本挿絵を本文との関係と併せて分析する。昨今のデジタル化の傾向に伴ってオリジナルが閲覧不可の場合は、高解像度の画像を入手し、極力オリジナルに近い情報を基に、正確な調査を期することとする。また、翌平成26年度は最終年度となるため、詩篇写本以外のジャンルの写本の調査をより進展させる。また、聖堂装飾との関わりを引き続き検討していくため、必要な関連資料を集めると共に、こちらも実見調査によって壁面全体の複雑なプログラムを正確に把握する。
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Research Products
(3 results)