2012 Fiscal Year Annual Research Report
パイロクロア型イリジウム酸化物における新奇な量子磁性と伝導現象の研究
Project/Area Number |
12J03194
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石川 洵 東京大学, 物性研究所, 特別研究員(DC1)
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Keywords | パイロクロア / イリジウム酸化物 / 金属絶縁体転移 / スピンアイス |
Research Abstract |
遍歴電子系における幾何学的にフラストレートした磁性と伝導電子との結合効果、および5d電子系における強いスピン軌道相互作用の効果は強相関電子物理における重要な問題である。加えて、近年いわゆるトポロジカル絶縁体などの発現に関わるバンドトポロジーの物理も俄かに注目を集めている。パイロクロア型イリジウム酸化物はこれら種々の効果が期待され、実験的には金属スピンアイス物質Pr_2Ir_2O_7におけるカイラルスピン液体の可能性や、R_2Ir_2O_7(R=Nd以降の希土類)における磁気転移に伴う金属絶縁体転移など興味深い物性発現の舞台となる一方、理論的にはWeyl半金属相の存在が予言され注目を集めている。我々はパイロクロア型イリジウム酸化物の大型の単結晶育成に成功し、以下のことを明らかにした。Pr_2Ir_2O_7に関しては、先行研究によって磁気秩序なしに自発的に異常ホール効果が表れることが明らかにされているが、今回我々は磁気秩序を示し、従来とは全く異なる基底状態をもつ試料の合成に成功した。中性子回折によって0.4K以下から磁気ブラッグピークが発達することが明らかにされた。EDXによる組成分析では明確な組成比のずれは観測されなかったが、今後基底状態の劇的な変化がどのように引き起こされているのかを明らかにすることで、スピン液体相の発現条件等を明らかにする端緒となる。Eu_2Ir_2O_7に関しては、Ir過剰で金属的な試料のホール抵抗測定によってキャリア密度が温度にほぼ線形に依存する一方、移動度が温度に反比例して発散する異常な振る舞いを見出した。これはフェルミエネルギー付近に線形分散をもつDirac電子系と類似の振る舞いであり、今後さらに制御された組成の試料による測定を進め、理論的にも予想されているDirac電子と類似の線形分散をもつWeyl半金属相の可能性を検証していく。また、共鳴X線磁気散乱の共同研究を行い、パイロクロア型イリジウム酸化物において初めてall-in all-outの反強磁性磁気構造を実験的に直接明らかにした。このことは、理論的に予言されているトポロジカル相の可能性を議論する足場とも言える重要な成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していたPr_2Ir_2O_7およびEu_2Ir_2O_7の単結晶の大型化に成功し、中性子回折や共鳴X線磁気散乱などの大型の単結晶を必要とする共同研究が飛躍的に進展した。一方で、特に大型のPr_2Ir_2O_7単結晶はわずかな酸素欠損の可能性があり、従来とは異なり磁気秩序を示すことが明らかになった。今後更に単結晶の純良化を行い比較研究を行うことで、磁気秩序の発現機構を明らかにし、スピン液体相の可能性を検証することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
大型化に成功したPr_2Ir_2O_7およびEu_2Ir_2O_7単結晶を更に純良化する。純良化した単結晶を用いて詳細な物性測定を行い、相図を作成する。また、単結晶純良化技術を応用し、組成を制御した試料を作成し、比較研究を行い、電気抵抗・ホール抵抗・比熱・磁化率への不純物の効果を調べる。これらを通して、フラストレート磁性体におけるカイラルスピン液体相の実験的典型例を確立し、異常伝導現象を多角的に解明する。
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Research Products
(6 results)